略奪…愛?

久秀×小十郎


 一通の手紙、それが片倉小十郎を頂点にまで怒らせた。
「松永久秀…何者であろうとも俺の政宗様を渡しはしない」
 拳を強く握り締め、己の爪で手のひらを傷つけてしまっていることにすら、気づかない程の怒り。
 畳に滴る血に、彼の元を訪ねた家臣が驚いた程だった。

「小十郎様、血が――」
「俺の血などどうでもいい。いいか、政宗様の身に何かあってみろ。この小十郎が地獄の果てまで追い詰めてやる」
 続いてまた別の家臣が彼の元へと訪ねてきた。
 先に訪ねてきた家臣とは様子がはるかに違う。
「恐れながら、小十郎様……政宗様の姿が――」
 そう、先ほどまで確認できていた政宗の姿が忽然と城の中から消えたのだった。
 松永久秀からの文――
 『奥州の竜を奪いに参上する』
片倉小十郎は、宣戦布告の文に激怒していたのだった。


 ◆◆◆

「俺を、奥州筆頭伊達政宗と知っての狼藉か?」
 政宗は初めて見る顔に、そう問いかけた。
 不意を付かれ麻袋の中に詰め込まれ、袋から出されたら目の前の男がいた。
 自分は自分の城の中にいた筈だが、ここはそうではないらしい。
 そもそも、どこかすら見当がつかない。
「知っていての処遇だ、伊達政宗。奥州の竜を奪うと、予告をしたのだが――主の従者はそれをどうでもいいと思ったようだな」
「従者――小十郎か……」
「ああ、そのような名だったか……」
「だったら、安心だ。小十郎なら俺の居場所を突き止め、すぐに駆けつける」
「大した自信だ」
「そりゃ、そうだろう。俺たちはラブってんだぜ? そこら辺の主従関係とは、違う」
「ならば、賭けるか」
「おう、いいぜ」
「片倉小十郎が、伊達政宗の為に、どれだけのことをするのか――楽しみにさせてもらう」

 こうして、小十郎を誘き寄せる為の餌とされてしまった政宗は、見晴らしのいい高台、さらに上の方に貼り付けられてしまった。


 ◆◆◆

 小十郎が遥か先に見える、政宗を肉眼で確認出来たのは、それから半日たった頃。
 すっかり夜も明け、清清しい朝日が昇っているが、小十郎の魂は夕日の太陽のように、赤く熱く燃えたぎっていた。
 政宗を貼り付けにするなど、許すまじ――松永久秀……!
 闘志が高ぶる。

「半日……まあまあというところか。お初にお目にかかる、片倉小十郎殿」
「ああ、松永久秀。お初でよくも政宗様を俺の手中から奪ってくれたな。しっかりとその礼はさせてもらう」
「ああ、そう。そうだった。君たちの主従関係がただの主従関係ごっこではないところを見せてもらおうか?」
 久秀がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「何をすれば、返してもらえる?」
「返す? ああ、そう。返す……ね。いいだろう。こちらの要望通りに君が動いてくれたら、返すと約束しよう」
 久秀は既に勝ち誇ったような目をしている。
 きっと、ろくでもないことを企んでいるのだろうと、予測ができるのだが、どのような要求にも応えるつもりでいた。
「では、さっそく――」
 久秀は小十郎に、自愛を求めた。
 ここでの自愛は、自分で自分の身体を愛せと言っている。
「くっ……人のそんな姿を見て、楽しいのか?」
「楽しいかどうかは、この際おまえには関係ない。拒めば、竜は貰う。ただ、それだけのことだ」
 ――そう、ただそれだけのことなのだ。
 上を見れば、政宗が何かを言っている。
 聞き取れないが、口の動きから「やめろ」とでも、言っているのだろう。
 政宗様――
 政宗にだけ捧げた身体を、卑劣な男の前に晒すこれ程の屈辱はない。
 だが、政宗がいないのに、この身体があっても仕方がないのだ。
 小十郎は、久秀の前で肌を露出、少しずつ服を脱ぎ、下半身を膝まで見せ、自分の股間を慰めはじめた。
 ぎこちない手の動き、視線を上にあげれば政宗がいる。
 高さがあっても、政宗の肉眼にはこの不埒な姿を捉えているに違いない。
 政宗に見られている――ほかの男にいいようにされている、愚かな男の身体を……そう思うと、自然に勃起へと近づいていっていた。

「くっ……」
 口からこぼれる吐息。
 無反応で淡々とやり過ごそうと思っても、頭の隅に見られているという意識が、小十郎を興奮させていた。
 政宗に見られている――
 久秀に見られている――
 どちらも、羞恥心を掻き立てるのに充分な要素だった。

 自分の手のひらの中で、確実に硬さを増し膨らんでいくモノを感じながら、身体の芯が火照りだしていく。
 政宗様の為と言い聞かせながらも、もうそんなはいい訳にしかなっていない。
 そこが熱く突き進むと、その先にあるものを願わずにはいられない。
 頭の中でまた言い訳を考えている。
 政宗様に見られているから――と。
 だが、果たしてそうだろうか。
 ふと、そんな疑問が脳裏を掠める。
 松永久秀、その男は表情ひとつ変えずに、ただ静かに片倉小十郎を見ていた。
 まるで、興味のない人形を見るかのような視線。
 しかし、その視線が曲者。
 何を考えているのかがさっぱりわからない。
 それゆえ、これだけで終わる筈がないと思わずにはいられなかった。

「どうした、片倉小十郎。イキたければいけ。好きなようにイって構わん。――が、何か一言、私を動かすような言葉を言え。でなければ、またこの繰り返しぞ?」
「バカげている。こんなことをして、見て、何が楽しい」
「ああ、楽しいよ。充分楽しい。忠誠心を図るのに、これ以上のものはないだろう。命をかけろなど、このご時世、大抵のものならするだろう。それではつまらん」
 ようするに、どこまで屈辱と羞恥に耐えられるかで、忠誠心を図ろうと言っているのだ。
 狂っている――
 この時代、狂った猛者などいくつも見てきたが、この男はまた違った意味での狂いを感じる。
「さあ、どうした。途中でやめて、くすぶりと悶えを味わうのが好みなら、そう言うがいい」
 そこまで変態ではない。
 小十郎は止めていた手を再び動かしだした。
 脈が強く打つ、もう先端からは白い液体が顔を見せている。
 一回上下に擦れば一滴こぼれ、もう一回上下に擦ってまた一滴こぼれて人差し指から流れ落ちていく。

「んっ、くっ……」
 こぼれそうな声を押さえ込めば押さえ込む程、余計必要ない声まで出しているようでならない。
 その思いがまた羞恥に繋がっていく。
 そして更に高ぶっていくという皮肉な連鎖になるのだ。
「……――っう!」
 唇が切れる程噛み締め、手のひらを白い液体でいっぱいにしたのは、そんな高ぶりからややしてからだった。

「何をしている。私の領地を汚す気か? 落すな、舐めろ」
 手からこぼれそうな液体を見た久秀が言う。
 たたみ掛けるように次の要求を投げてくる。
 やはり、侮れない。
 小十郎は身体を屈め、落ちそうな手のひらにある液体を舌で舐める。
 ほのかな苦味と生臭さ――これが片倉小十郎の味なのだと感じたのは最初だけで、後は無感情の人形のように淡々と舐め続けていた。


「これで、いいのか?」
 口に中に精液の苦味と、切った唇から感じる血の苦味とが混ざり合い、咽喉が渇く。
 搾り出すように声を出した小十郎を待っていたのは、冷ややかな久秀の視線だった。
「なんと、竜の右目と言われた男がこうも汚れた身体をしているとは、失望したぞ?」
「――なに?」
「そうであろう? 戦って主を取り戻す、その選択肢もあった筈だが、私の言葉を間に受け、そのような汚らわしい身体を見せるとは、伊達の家臣も大したことがない」
「――それは、俺への愚弄ではなく、政宗様への愚弄だぞ、貴様!」
「ふむ。まだ牙を剥く余力があるのか。だが、そのような淫らな姿で凄まれても、意味を成していない」
 着崩した衣服、曝け出されている下半身。
 少し乱れた髪の毛――武人としての片倉小十郎の姿ではない。
「見た目がなんだというのだ? 主の為、俺は魂だけになっても守って取り返してみせる」
「ならば、やってみせろ。ただし、六本分、耐えた後に、な」
 久秀の合図に、伏兵が姿を見せる。
 囚われの政宗を目の前に、抵抗できるはずもない。
 無抵抗な政宗は、政宗と対になるような形で貼り付けられる。
 ただし、つま先が辛うじて地につく程度の高さ、政宗からはまだ見下ろされる状態である。


 
「それは、政宗様の――」
 開かれた両脚、その間に突き刺そうとしているのは、政宗の刀だった。
「いつも、政宗の相手をしているのだろう? この刀の柄六本で楽しんでいる姿を見せてもらおう。気絶せず、楽しんでくれたら、政宗を返してやってもいい」
 返すと言わないところが、まだ何か考えているのだと思わせられる。
「政宗様の刀を汚せと?」
「大好きな政宗を取り戻したければ、するのだな。やれ!」
 否……と、拒む間もなく、一本目が突き刺さる。
 こじ開けるようにして突き刺さっていく感覚が、政宗を背いていくよう。
 更にもう一本、遠慮なく入っていく。
「くっ……政宗様、申し訳ございません――」
 上の方に視線を向け、小声で呟く。
 三本目が入る。
 無理に広げられ、実際これが限界だというくらいに広げられても、ゆとりなどなくギリギリだった。
 上の方で政宗が何かを叫んでいる。
 上空は風がかなりあるのか、先端が揺れている。
 政宗の叫びも、風に流され小十郎の耳まで届かない。

 四本目――
「裂けてしまいそうだな、どうする? 根性を見せるか?」
 久秀が冷ややかに問う。
「ゲス野郎」
「まだそんな口を――やれ」
 久秀の言葉に、兵はただ従うのみ。
 感情というのがないのか、無表情で四本目を差し込む。
 秘所が裂けそう、この時本当にその恐怖が小十郎を襲う。
 微かに抵抗出来る動きは取れる。
 縄を身動き出来ない程強く縛り上げられれば、血管が圧迫、血液が行き届かなくなり腐ってしまう。
 人は殺意がない時、無意識にその動作をしてしまうらしい。
 しめた――小十郎はこじ開けられる秘所から感じる感覚を出来るだけ気にしないよう、意識を縛られている腕の方に集中した。
 どこか、関節を外せれば腕がすり抜けられそう。
 だが、その後はどうする?
 何度か頭の中で先を描いてみるが、どちらにしても小十郎に分があるとは思えない。
 それでも、全てを秘所で受け入れるなんていうのは、無理。
 久秀は、小十郎が折れるのを待っている、それが目的なのだろう。
 
 秘所に感じる苦痛と関節を外した痛みが運良く重なる。
 呻き声はどちらにも受け取れ、束縛を解いているのだとは、まだ気づかれていない。
「入れたものを落すなよ?」
 足掻いているのは、苦痛から逃れる為と久秀は思ったのだろう。
 ズルッと落ちかけた刀を支え、ニヤリとそう言った。
 片足だけでも自由になれれば、ちょうどいい位置に久秀がいる。
 顔面、ないし顎に蹴りのひとつでも入れられる距離。
 だが、自由になる足はない変わりに、五本目を手にした久秀が魔性の笑みを浮かべた。
「さすがに慣らした秘所であっても、五本目は無理であろう。縋れ、泣いて縋れ、片倉小十郎。政宗共々、私の飼い狗にしてやってもいい」
 もうこれまでか――
 視界を目蓋が遮り、秘所に激痛が走る。
 そのまま押し込められれば、確実にそこから身体が裂ける。
 その映像が目蓋の奥で流れ出した――が、痛みはそこで終わった。


 ◆◆◆

 小十郎の身体が地面に横たわる、その感触は意識の中にしっかりとあった。
 ただ、何が起こったのか、目蓋を開けることを躊躇する。
「ったく、いつまで眠り姫みたいなこと、してるんじゃねぇよ、小十郎」

 聞きなれた声に目蓋を開けると、頭から血を流し、片腕がただぶら下がっているだけの政宗の姿があった。
「すまねぇな、小十郎。おまえに嫌な思いをさせた」
 そんな言葉を言っている政宗の方が、小十郎より遥かに傷ついている。
「あそこから、自力で?」
「ちょっと、目論み外してしまって、腕と肋骨、ついでに足まで折れちまったらしい。おまえ、歩ける?」
 答えるまでもない、下半身は痛みしか感じない。
 そして生暖かい何かが流れている。
「随分派手に切れちまったな。当分、抱いてやれねぇ」
 自分の身体の状態を理解している発言とは思えない。
「久秀は?」
「さぁな。生きてりゃ、崖よじ登って来るんじゃねぇの?」
 この高台から突き落としたのか――普通の人間じゃ、生きていないだろうが……
「今度は、しっかり倍返ししてやろうぜ、小十郎」

 そんな政宗の言葉を遠くに聞きながら、小十郎は小声で呟いた。

 ――少し、休ませてください……政宗様――


 ◆◆ 完 ◆◆

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