寒梅
慶次×小十郎
例年より早い冬。
そこに咲く、梅の花。
慶次はひとりの男と観賞していた。
「いいものを見せてもらった、前田慶次」
「いや、喜んでくれたのなら、呼び寄越せた甲斐があったっていうものだ」
『寒梅を見に来ないか』
そんな文に、反応してもらえるとは、思わなかった。
片倉小十郎――熱き武人に、そんな心があるとは意外であったが、同じ価値観を得られた喜びが増す。
◆◆◆
「冷たいな、あんたの手」
身震いをした小十郎に、自分が多く着こんでいた着物を脱いで肩にかける。
ドサクサに紛れて触れた手の、異常な冷たさに思わず握りしめてしまった。
「慣れている。俺の住む国は、こんな寒さではない」
「ああ、そうだね。俺も、冬に行ったことがあるのは、一回だけだけど、思った以上に寒かった」
「なんだ、来た事があるのに、素道理か?」
「そりゃ、まだ誰とも面識なかったし。それに、信長が生きていた。一応、俺の家系は織田軍だからね。伊達軍からしたら、敵」
「珍しいな、慶次が家のことを話すなんて」
「そうか? だったら、あんたに感化されたんだ、きっと。いつもいつも、『政宗様』な、小十郎にさ」
「――ふっ、おまえがそれを言うまで、忘れていたのだが? 思い出してしまっては、あまり京の都に滞在してはいられないな」
「――って、そういう意地悪は、勘弁してよ。今夜、優しくできなくなる」
「優しく? あれのどこが優しいと?」
昨夜の激しさがまだ残っていると、小十郎は腰をさすった。
「ちょっと、待て。盛ってンじゃねぇ!!」
連れ去るように部屋の中に押し倒した慶次は、固い畳の上に小十郎を押し付けた。
背中に感じる痛みと、上から押しかかる重みと先走る荒い息に、身の危険を感じる。
やられたところで、今更の関係。
だが――
「少しは落ち着け。俺は、長旅で疲れているんだ」
そう――冬、奥州から京まで馬に乗って一人旅は、かなり過酷だった。
老体に鞭打ってとまでは行かずとも、あまり留守には出来ないという気持ちが、強行手段という道を、小十郎に選ばせてしまっていたのだった。
「別に俺は、急いでとは言っていない。その急ぎ、嘘でもいいから早く会いたかったって、言ってくれてもいいじゃないか」
少しふて腐れた慶次の顔。
それが歳より幼く見せる。
「みっともない嫉妬はよせ。比べる対象じゃないだろう?」
溜息と共に諭しだす小十郎は、男としての慶次というより、子供な慶次をあやしているような感覚になっていった。
「第一、おまえの誘いでなければ、わざわざ出向いたりはしない。寒梅、今宵はもう無理なんだろう?」
「ああ、自然の明かりで見てもらいたい」
「だったら、時間はたっぷりとある。焦るな――慶次」
「ああ。うん、そうだね。ごめん、小十郎。俺らしくないことを、した」
慶次の華やかさがしおれていく。
まったく――と、ぼやいた後、慶次の頭を引き寄せて口づけをしたのは、小十郎の方からだった。
現金なヤツ。
小十郎は少しだけ後悔をした。
身体を貫く、慶次の熱いモノは、小十郎の疲労などお構いなしにグイグイと抜き差しを繰り返す。
水を得た魚とでもいうのか、疲れ知らずの慶次は、一度小十郎の体内で果てたのに、まだ中に刺さったままで復活をしてしまっていた。
「待て――んっ、くっ……慶次」
今更待てもないだろう――
それが慶次の答え。
待てといいながら、小十郎の身体はしっかりと慶次のモノで楽しんでいる。
脚を開いて腰を浮かし、無意識に深くモノが入り込める体位を作っていた。
「深く入っている? こう、擦ると、気持ちいい?」
「訊くな――説明するな――」
「どうして? 小十郎の口から聞きたいだけなんだけど」
「気持ちいいから、脚開いてんだろうが、わかれ!」
「うん、知っている。だから、言わせたいだけだって、言ったじゃん」
擦り付けるように抜き差しした後、今度はただ奥へ突き上げるだけの動きへと返る。
小十郎は歓喜の声を惜しげもなく響かせ、身体をよじり、時折慶次の腕にしがみついて、彼の全てを受け入れる。
「やっ……焦らすな……んっ、くっ……け、慶次――」
それでも名前を呼ばないと、呼ばせるような焦らしをわざとする。
小十郎の唇が慶次と動くと、それを受け入れるように唇を重ねる。
「嬉しい――小十郎の唇が、俺の名を語るのが……」
たまたま見つけた、寒梅。
それが小十郎の甘い吐息を感じた時と、嬉しさが重なった。
だけど、こうして本物の吐息を直に感じると、共に観賞するよりも時間の許す限りこうしていたいという欲が生まれる。
しかし、それをしてしまったら、二度と小十郎は慶次とは会ってくれないだろう。
だから仕方がない。
自分に歯止めをする意味も込めて、激しく抱いてしまう。
そしてその結果――
◆◆◆
「腰痛に効く温泉が近くにあるって話だけど?」
「温泉? それは助かる――って、おまえ。それが目的で昨夜……」
本当に腰に響いているのかと疑ってしまう程、切れのいい踏み込みで歩み寄られた慶次は、引きつった顔に苦笑いを浮かべ、必死にあの手この手と言い訳を繰り広げるのだった。
◇◇ 完結 ◇◇