Trick or Treat
政宗×小十郎
長月中旬、伊達政宗のもとに、複数の包みが届けられた。
瞬く間にひとつの部屋を占領するほどの量に、黙ってみていた小十郎の不信感は限界を達し、政宗の部屋に乱入。
息荒い小十郎の訪ねてきた理由はすぐにわかったが、シラをきる。
その態度が小十郎の神経を逆撫でた。
「そこにお座りください、政宗様」
ただでさえ強面が、一層鬼の形相になっている。
「なんだ、小十郎。また小言か?」
「その小言を言わせているのは、誰か?」
「ああ? それは、てめぇだろ。勝手に言っていろ。俺は忙しい」
聞く耳持たずの姿勢を崩さず、政宗は口笛吹きながら届けられた包みをひとつずつ開けていく。
――と、その中身も気になっていた小十郎が政宗の肩越しから見え隠れするものを背伸びして覗き込む。
その気配に気づかない政宗ではないが、そのまま気づかないふりをする。
政宗のその作戦が効いたのか、なにやら怪しげな品々に、小十郎の疑問が疼きだす。
「政宗さま――」
「ん?」
「それは、なんですか? その、獣の歯のようですが?」
「ああ、これか?」
手にしていた歯型を小十郎の目の前に差し出した。
「これは、仮装に使う小道具だ」
「かそう――とは?」
「変装みたいなものだ」
「なんと、変装! 政宗様、今度はどこを攻めるおつもりで? 偵察ならば、他のものにさせましょう。変装してまで、政宗さまがされることではありません!」
大真面目に返す小十郎の言葉に、さすがの政宗も返す言葉を無くす。
ただ、黙って小十郎の顔をマジマジと見る。
そして、額に手を当て――
「熱など、ありませんが?」
更にクソ真面目に返す小十郎。
からかい甲斐があるというもの。
政宗の心中が、ニヤリとほくそえむ。
◇◇◇
一旦、小十郎に背を向け、なにやらごそごそと包みを開けては中を確認し、一定のものだけを物色して身につけていく。
この人はいったい?
小十郎の中で、ささやかな疑念が生まれる。
この数ヶ月、閉じ込めて事務的な仕事をさせすぎただろうか――と。
その結果、精神を病んでしまったのだろうか――と。
考えれば考えるほど、ドつぼに填っていく。
「あの、政宗様?」
おそるおそる背後から声をかけると、いきなり対象の人物が振り返り――
畳の上に押し倒される。
「――っう……」
受身を取れずに背中を叩きつけられてしまった。
なんともいえない痛みが小十郎を襲うのだが、それ以上に自分に襲いかかろうとしている人物の姿に驚く。
「ま――政宗、様?」
髪を油でオールバックに。
黒いマントをつけ、口元には牙が――
こんな格好で偵察にいくつもりだったのだろうか、このお方は――
小十郎の脳内はぐるぐるといろんなことが巡りだし、考えがまとまらない。
この人に、なんと声をかければいいのかが、わからない。
もともと小十郎の許容範囲外のことも平気でしでかす人ではあったが、日増しに酷くなっていくような気がしてならなかった。
ここはビシッと言い聞かせるべきだろう。
次第に落ち着いていく小十郎の気持ちが、そう答えをだしていく。
小言の小十郎、そう政宗に何度嫌味を言われても、やめることのできない唯一言い聞かせる手段。
これでもダメなら、切腹覚悟で力づくになってしまう。
切腹――それで政宗様がよい方に歩んでくれるのならば、安い命だと常に思っているが、政宗が目指すものを一緒に見てみたいとも思う。
その欲が、小十郎を留めさせている。
政宗の肩に手を置き、一拍置くように溜息をつき、唇を動かす――が、なぜか首筋にチクリとした痛みが――
「へぇ、小十郎の血は暖かくて、少し苦味があるな。不味くはないが、少し色気がほしい」
「――はい?」
素っ頓狂な声を思わず出してしまった。
「なんて声出している? まったく、色気がないな」
「――意味が、わかりませんが?」
眉間におもいっきりシワを寄せて、小十郎がやっと言葉らしいことを口にした。
「ああ、悪い。なんていうんだっけ?」
手探りで手の届く範囲を探し、指先に触れたものを引き寄せる。
手に取り紙に書かれている文字を目で追い――
「そうそう、トリック・オア・トリートだ、小十郎」
いきなり聞きなれない言葉を言われても、返す言葉はない。
いっそう眉間のシワを増やしただけだった。
「俺たちの言葉にすると、お菓子くれないと悪戯するぞ――だったか。くれ、小十郎」
と、いわれても、小十郎が菓子など持ち歩いているはずがない。
もちろん政宗はそれを知っていて迫っているのだが。
「わかりました。とりあえず政宗様の身体を退けていただかないと、菓子を取りにいけませんが」
クソ真面目に正論で返す。
洒落のひとつもいえないのかと、政宗は溜息をひとつ。
「ったく、楽しみが半減することを言わせたら、天下一品だな――小十郎は」
言っている台詞と、政宗の行動が合っていない。
言いながら、政宗は小十郎の着物を強引に引き裂いたのだった。
「なにを?」
「なにを、じゃねぇ。菓子くれないから、これから悪戯をする」
「まったく、おっしゃっている意味がわかりませんが?」
「鈍い男だな。悪戯しながら抱くって言ってんだよ」
小十郎の首筋から流れる血を舌ですくって舐める。
舐めながら、また牙を立てると、小十郎の身体が逃れるようによじられる。
「逃がさねぇぞ、小十郎」
政宗は牙付の歯形を外し、唇を牙でつけた傷に触れて吸い上げた。
「――ンッ……」
小十郎の口元から甘い吐息がこぼれる。
政宗の鼓動が高まる。
堅物な小十郎の身体が開いていく過程が、たまらなく弄りつくしたい心境にかられる。
「そんな欲しそうな声出すなよ。じっくりとほぐしてやっからよ」
焦らすようにゆっくりと小十郎の身体を溶かしていく――このひとつひとつの反応が凄く艶かしい。
首筋の血が止まるのを確認してから徐々に下へと愛撫を動かしていく。
厚い胸板にあるふたつの突起物は既に硬さを増し、小豆を思わせる。
その突起物に舌先を押し当てると、小十郎の身体が痙攣に近い反応を示し、その舌に酔っていることを教える。
「気持ちいいのかよ、ここが。でも違うよな、小十郎。おまえの欲しいのはもっと下だ」
先に手が待てずに下半身へと下りていき、股の間をさする。
脚を開けの合図に、小十郎は逆らうことなく開いた。
「素直だな。そんなに悪戯されたいのか、小十郎」
なじる言葉が耳元で囁かれ、それを避けるように顔を逸らす。
――が、その逸らしは政宗の荒々しい口づけによって阻まれた。
重なった唇は吸い付くように貪る。
「ふっ……んっ、ンッ――」
息が出来ないほど濃厚なキスが小十郎の思考を遮断させていく。
なるようになってしまえ――と。
政宗の手が股の間をさすりながら股間へと近づいていく。
布の上から触れる小十郎のモノはしっかりと膨らみを増していた。
政宗の手が触れると、その刺激に応えるように硬さが増し、脈打つ感触まで伝わってきそうなほどだった。
「感じているだろ、小十郎」
政宗の言葉が小十郎の耳に届いているが、意識できるのは遠くで囁かれているような感じ。
答えない小十郎に対し、政宗の手が動きを止めると、やめるなと身体から手に接触してくる。
可愛いこと、してくれる――
小十郎が無意識にしている動きが愛しい。
と、同時に弄りたくなる。
焦らして焦らして、小十郎の口からも強請る言葉を聞きたくなる。
しかし、そこまで我慢できるほど、政宗に理性は保てない。
若さゆえ――
仕方がないとはいえ、何度もこの間で彼は舌打ちして悔しがるのだ。
「だったらしょうがねぇ。時間かけてほぐしてやろうと思ったけど――」
まだ受け入れ態勢には遠い小十郎の体内に、自分のモノを捻り込み始めた。
「くっ……うっんっ――っう……」
痛みというよりは、急に襲った圧迫感に苦しむような吐息が漏れる。
少し歪んだ表情が、苛めた甲斐があると、政宗は満足をする。
少し窮屈な感覚が、いい締め付けに変わっていく様がたまらなくいい。
次第に湿りを帯びて蜜を絡ませていくモノが奥を突き上げる。
その時、小十郎の身体は熱を上げて喜ぶのだ。
欲しがるように、もっとと強請るように、政宗にすがる。
「んっ……くっ、やぁ……はっあっ、ンッ――」
「いい声だ、小十郎。もっと俺にしがみつけ。奥深くまで貫いてやる」
野放しになっていた小十郎の両腕が、政宗の首に絡む。
引き寄せ、互いの身体をより近くになると、政宗の口元から溢れる熱い吐息が顔に吹き掛かった。
「んっ、いい……ま……さ、むね――様」
「当たり前だ、小十郎」
耳元で囁き、そのまま耳たぶを軽く噛む。
「くっんっ……」
身体を浮き上がらせ、弾む喘ぎ声を発して悦ぶ。
次第に腰を浮かせては揺らし、自分からも快楽を求めて味わう小十郎。
小十郎のその姿に、政宗のモノが彼の体内で更に膨らみ脈打つ。
体内に自分の分身で埋め尽くした政宗の突き上げは止まらない。
何度も何度も小十郎の身体を浮き上がらせ、そして体内に欲望を撒き散らした。
◇◇◇
「――で、なんでこの小十郎がこのような姿をする必要が?」
破かれた着物、精液で汚れた着物を着ることは出来ない。
小十郎は仕方なく、政宗の着物を貸してくれと頼んだのだが、政宗から貸し出されたのは――
「結構似合っているぞ、小十郎。よし、このまま城内を回って、菓子を貰いにいくぞ。くれなかったヤツには辱めを――そうだな、この南瓜の被り物でもして過ごしてもらおうか」
いくつかの南瓜のお化けを取り出し、障子を開けようとした。
――が、それは必死に抵抗する小十郎の阻止で止まる。
「冗談ではないですぞ、政宗様。いったい、なにをしたいのですか?」
「だから、ハロウィーンだって」
「はろうぃーん? なんですか?」
「発音悪いな、ハロウィーンだ、ハロウィーン。こういう仮装して子供がお菓子貰いに家々を回る、海の向こうの慣わしだ」
政宗は自分に都合のいいことだけを掻い摘んで説明をしている。
それを知ったのは、しばらく経ってからなのだが、この時の小十郎はとてもじゃないが政宗のお遊びに付き合う気はなかった。
とんがり防止に竹ほうき。
短いマントにミニスカで、魔女の姿をしていたからだった――
「ちっ、吸血鬼と魔女。なかなかいいと思ったんだが――」
小十郎の必死の抵抗に、あえなくこの年のハロウィーン行事が中止になったのは、いうまでもない。
☆☆ END ☆☆