振り返ればそこに…

政宗×小十郎



「いいものだな、夫婦(めおと)というものは」

 政宗らしからぬこの言葉。
 それは先日、前田利家とまつご夫妻を目撃してからのことだった。
 あちらはこちらに気づくことはなかったが、政宗の目には助け合う前田夫妻の姿がとてもいいものに映ったのだろう。

 確かに、政宗も年頃。
 正妻を娶(めと)ってもおかしくはないのだが、なぜ今までそのような話が出なかったのかが不思議な程であると、客観的に見た小十郎は思い返していた。
「政宗様が望まれるのでしたら、隣国より見合う姫を探させますが?」
「は?」
「ですから、政宗様はお望みなのですよね……ご正妻を」
「いや、別に。ただ、単にいいものだな――って、だけだ。なんだ? 小十郎は俺に娶ってほしいのか?」
 反対に訊かれた小十郎は、遠い昔を思い返していた――


 ◆◆◆◆◆

 それはまだ、政宗が元服する前、梵天丸と呼ばれていた頃。
 小十郎もまだ景綱と呼ばれ、小十郎という愛称は一部の者にしか呼ばれていなかった若き日の頃――

「ご安心なされませ、梵天丸様。この小十郎景綱が、責任持って梵天丸様を男にして差し上げます」
 今から何をされるのか、まったく理解をしていない、後の政宗は、小十郎の袖をしかと握り、縋るような目で見つめていた。
「痛いのか?」
「どうでしょう…」
「小十郎は、痛かった?」
「いえ、小十郎は別に……」
 とは言え、本当のことは言えない。
 知らなくてもいいことは、知らなくていい。
 身体を震えさせている梵天丸を、小十郎は強く優しく抱きしめた。


「順調ですよ、梵天丸様。我慢なさらずに、小十郎の手の中に射精してください」
 手のひらに感じる、小さいモノが小さいなりに大きさを変えていく。
 小さくてもしっかりと脈を打って、先端から白い液が顔を出す。
「でも、小十郎……」
「別に、不安がることはございません。自然の行為にございます」
 幼いながらも、いけないことをしているかのように耐える後の政宗は、しっかりと小十郎の袖を握り、顔を彼の胸の中に埋める。
 可愛らしすぎる――
 小十郎はこの時、いけない大人の気持ちを抑えるのが精一杯だった。
 暫くして、やはり耐え切れなかった梵天丸は、小十郎の手の中に白い液体を放出する。

「何をしているのだ、小十郎。汚いではないか」
 手のひらに広がる、梵天丸の出した白いモノ。
 それを舌で舐め取っている。
「汚いなど……梵天丸様の出されたもので、汚いものなど、小十郎が感じるモノは、ございません」
 その姿を見た梵天丸は、幼きままに小十郎の意外な一面を垣間見たような感じがした。

「さぁ、梵天丸様――」
 手のひらのものを舐め取った小十郎は、服を脱ぎ梵天丸の前に立つ。
 膝を付き、腰を落としても、梵天丸の目は、彼の股間中央に釘付けとなってしまっている。
「その、太いのが入るのか?」
「はい。お父上様より、男にしてやれと命を受けましたので。女子(おなご)を抱くことを知るには、抱かれてみるのがよろしいかと」
「無理だ。そのように、太いものが入るわけがない」
「大丈夫でございます。この小十郎がしっかりとほぐして、優しく挿入しますので」
「嘘だ――やはり、痛そうではないか」
 見た目の恐怖心が、梵天丸の高ぶりかけていた気持ちを下げ、萎縮させてしまっている。
 痛くはない。
 とても気持ちのよい行為なのだと、知ってもらわなければ、伊達家はそこで絶えてしまう。
 小十郎の中で、ここで終わらせてはならないという使命感が、口にした言葉。
「それでは、小十郎のこの穴の中にお入れください」
 秘所を指で広げて見せた。
 この時の言葉、この時の行為が、後々政宗の性癖を変えるきっかけとなろうとは、努々(ゆめゆめ)思いもしていなかった。


「小十郎の中は、暖かくて、気持ちのいいものなのだな」
 挿入して暫く、初めて体験する挿入感に浸っていた梵天丸は、それが気に入ったのか、何度も擦り、何度も抜き差しをした。
 細くて、まだ奥深くまで入るには程遠いモノではあったが、意外と刺激をくれる動きに、小十郎の身体も開花していく。
「梵天丸様……なかなかよい素質をお持ちでらっしゃいます」
「小十郎は? 気持ちいいのか?」
「はい――梵天丸様が気持ちよく感じてらっしゃるのであれば、小十郎、これ以上の幸せはございません」
「そうか――小十郎はこういう行為が好きなのだな……」
 少し勘違いをされてしまったような……
 だがしかし、これで伊達家の未来は開けたも同然と思う小十郎は、あまり深く追求もしなかったのだった。


 ◆◆◆◆◆

 政宗様――
 もしや、この小十郎があのようなことを言ってしまったが為に、婚期を逃されてしまっているのでは?

「ん? どうした、小十郎……」
「いえ。あの、まさかとは思いますが、昔のあれが尾を引いているとか?」
「昔? ああ、小十郎とはじめていいことをした日か? あれから何度もひとつに繋がったよな……」
「――そう、ですね」
「――で? 小十郎は、俺なしでこれから先、大丈夫なのか?」
「伊達家の為、政宗様の為と思えば――」
「と、言うと思ったぜ。けどよ、小十郎。俺は別に男色家って訳じゃねぇ。小十郎だから勃つし、突っ込みたいと思う。嫁のことは気にするな。俺が、小十郎を手放したくない。おまえが責任を感じることじゃない。こう言えば、おまえは納得するのか?」


 その晩。
 久しぶりに小十郎は激しい夜を政宗と過ごした。
 朝方、ふと目だけが覚めると、生々しい傷跡の背中が目に飛び込む。
 自分がつけた爪あとだと気づくのに、暫し時間がかかる。
 その傷跡を愛おしそうに指でなぞると――
「小十郎――いつも、俺の目の届く範囲にいろ。俺が振り返れば、そこにいるのは、他の誰でもない、小十郎だけだ」


 戦場(いくさば)で、この人の背中を守るのは自分である。
 政宗もまた、預けられるのは小十郎だけだと信じている。
 だが、戦場以外にも背後にいていいのは、小十郎だけだと、政宗は言う――


 振り返れば
 そこに――

 いるのは……



 ◆◆ 完結 ◆◆

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