The Boy's Festival

INDEX

政宗×小十郎


 片倉小十郎がここ数日姿を見せないことに、幼き日の伊達政宗、梵天丸は子供心に自分は小十郎に嫌われた悲観した頃があった。
 五月、春風漂う日のこと。
 毎年ふと思い出す、あの頃のこと。
 五月五日が近づくと――

 そして今年も、小十郎の姿を見ない日が始まり出した。


 ◆◇◆

「やはり、ここに居たか、小十郎」
 地位ある者が足を踏み込む場に程遠い台所。
 小十郎は昨日自分の畑から収穫した野菜を手に、テキパキと無駄なく身体を動かしていた。
「政宗様? 人を寄越して頂ければ小十郎が伺いましたものを。伊達政宗ともあろう者がこのような場所にわざわざ……火急の用でも?」
「いや、そうじゃない。どうせ、手を離せないだろうと思ったから、来てみた」
 毎年毎年のこと。
 それが2回続き、3回続きとなればいくら幼い梵天丸であっても、想像がつく。
 ただ、立ち入ってはならないという決まりをバカ正直に守っていただけのことで、悪戯好きな年頃になれば、ダメと言われればしてみたい、見てみたいと思い、実行をする。
 立ち入ってはダメだと言われた台所に初めて立ち入ったのも、その頃。
 そして初めて見る、小十郎の姿にキュンと何かを感じたのだ。
 それと同時に、子供らしい我儘を口にした。

 ――梵天丸と料理、どちらが大事なんだ、小十郎は……

 翌日、五月五日に口にした様々な料理のひとつひとつは、小十郎の手作りであると知ったのも、その時。
 美味なものを食べさせてくれる、嬉しいのに、その為に小十郎が傍にいない寂しさがある。
 ひとつを取ればひとつが欠け、ふたつ同時に得ることはできないということも、この時に学んだ。
 あの日の晩、まだ梵天丸だった政宗は、随分と大胆な行動にも出ていた。
「小十郎。梵天丸はもう子供ではない。梵天丸を男にしてくれ……」
 名実ともに男になるという意味を、飛躍して勘違い。
 それを堂々と言うものだから、小十郎の方が赤面してしまっていた。
「梵天丸様、そのような発言。時と場所をお考えください。さあ、着物を着て。五月とは言え、まだ夜風は冷えます。裸のままでは風邪をひいてしまう」
 大人の余裕というものを見せたつもりだが、小十郎は内心、心臓が口から飛び出そうなくらい嬉しく、そう感じた自分を恥じていたのだ。
 ゴクッと生唾が音を立てる。
 見ただけでもトキメキを感じてならない梵天丸の裸体。
 まだ小さなモノだが、それで掻きまわされたい。
 男にして頂きたいのは、小十郎の方です!!
 そう叫んでしまいそうだった。


 二人が同時に吹き出す。
「お寂しいですか? 政宗様」
「ん? 俺が、か? 冗談だろ。料理作りながら、この後酒飲みつつ俺に悪戯されることを考えていたンじゃないのか、小十郎は……」
「それを、あなたが言いますか? 可愛いと思っていた幼少の頃。いきなり牙を剥き、小十郎を押し倒したのは、どなたでしたか?」

 端午の節句。
 それは小十郎と政宗にとっては、ひとつひとつ関係が強く結びついていった記念日でもある。
 柏餅もちまきも……
 最上級の酒を酌み交わし、互いの身体を貪る、ふたりだけのならわしは今年で何年目であろうか――


「思い出話は後ほど。もう暫しお待ちください、政宗様。今年は小十郎自信作がございます」
「新作か?」
「はい。それと、旨いと評判の酒を取り寄せました」
「どんな旨い酒でも、小十郎の方が美味だ。俺に悪戯されたくなきゃ、少しでも早く俺のところへ、来い。寂しくて不貞腐れないうちに、な」
 ――仰せのままに……


 小十郎の手料理を食前に、小十郎そのものを主食に、政宗が堪能したのは、それから暫くしてからのことだった――


 ◆ごちそうさま◆
INDEX

-Powered by HTML DWARF-