時空の彼方
政宗×小十郎
時は戦国。
関が原の戦い真っ只中。
家康の盾になる本多忠勝との激しい一騎打ち。
政宗の背後を守る小十郎は、忠勝と政宗が激突する最中、ふたりの間に見たこともない空間が出来始めていたことに気付く。
「気をつけてください。徳川の新たな攻撃かも、しれません!」
「OK、小十郎。だったら、遊びは終わりだ。本気で行く」
一旦距離を取り、間合いを詰める政宗。
――遊び?
――本気?
政宗様――戦はあれほど遊びではないと……
などと切り抜けたら言っておきたい小言をぶつぶつ呟く小十郎は、半ば諦めの溜息と共に気合を入れ直す。
「存分に、政宗様。背中はこの小十郎がお守りする」
政宗様に手を出すヤツは、殺す――
更なる殺気を撒き散らし、得意の下から斬り上げる。
血しぶきと共に肉体が飛ぶと、牽制していた兵士が一歩二歩と下がる。
後退する歩兵に対し、家康が激を飛ばし、その言葉が忠勝の背中を押す。
激しいぶつかり合い。
刃がぶつかりあい火花が散る。
すると――
また一段と空間が広がり……
「下がってください、政宗様!!」
事態の変化に嫌な勘を感じた小十郎が叫ぶが――
一瞬の差で政宗は一歩を踏み出す。
と、同時に空間が広がり政宗の足が地から離れる。
「政宗様――――――!!」
迷うことなく不明の空間に飛び込んだ小十郎だった。
◇◆◇◆◇
「Hei! ブショウorニンジャ?」
辛うじて聞き取れる言葉、ブショウとニンジャ。
それに対し、政宗は得意げに応対する。
「I am ブショウ。OK?」
異国の言葉をまさかこんな形で活用できようとは……政宗は自分の置かれた立場をとても喜んでいた。
一方片倉小十郎は――
心身ともに疲労困憊。
これは夢だと誰か言ってくれ――と、半ば現実逃避状態だった。
関が原で本多忠勝と戦っていたと思ったら、いきなり異国に飛ばされていました。
――なんて、どう説明すれば理解される?
当人達ですら自覚するのに、随分と時間がかかった。
しかも、時空を飛び越えている。
今自分達がいるのは、1900年代。
見るもの全てが物珍しいモノばかりである。
小十郎にしてみれば、新種の野菜が目白押しの市場などに出向けば、心が躍らないわけがない。
戻る時には、種やら苗やらを持ち帰って品種改良してなどと、自分の趣味の新たな発展へ余念がない。
しかし、実際問題。
戻れるという確証は、ない。
戻る手段がない。
異常現象が、そうそう容易く起こるとは思えない。
この時代に骨を埋める覚悟が必要なのかもしれないと思う反面、そうひとりで考えている最中、この状況を楽しんでいるようにしか見えない政宗に対し、殺意にも似た感情がわき上がってこないとは言い切れない。
例えば、悪夢に魘され起きた時、隣で静かな寝息をたてて爆睡している政宗を見ると、枕元に置いた短剣突きつけて、もう少し自覚して頂きたいと叱咤したくなる。
もう、小言程度では収まらないほど、小十郎の心身は追い込まれていた。
そして――
この時代に飛ばされて1ヵ月が経とうとしていた、金曜日。
政宗の何気ないひと言で、新たな事態へと突き進む。
◇◆◇◆◇
「小十郎。今日が何の日か、知っているか?」
「確か、Friday……我々の国で言うところの、金曜日――で、したか?」
「OH,Yes! なんだかんだ言って、小十郎もこの国に慣れてきたじゃないか」
普段ならば、天にも昇る嬉しさの筈だが、今回ばかりは褒められても嬉しくはない。
むしろ、このままここで骨を埋めようと宣告されやしないか、生きた心地がしない。
――が、場所は違っても主従関係は変わらない。
「恐れ入ります。で? それが、なにか?」
謙虚にお褒めの言葉を受け止め、話を進める。
「ただの金曜日じゃない。13日の金曜日」
「――はあ、それはそうでしょう。今日は13日ですから」
「違う違う。13日の金曜日っていうのは、不吉なんだそうだ」
「どの辺が?」
「どの辺? さあ? どの辺だろう……まあ、細かいことは気にするな。とりあえず、その不吉っていうのを吹き飛ばす勢いで、今夜も楽しもうぜ、小十郎」
そう言った後、政宗は意図も簡単に小十郎の身体を押し倒す。
それが当然の成り行きのように受け止める小十郎。
どちらからともなく唇が重なり合い、静かな郊外、部屋の中には甘い艶やかな吐息だけが響く。
近くに危険が迫っていることなど、気にする気配すらみせず――
政宗の手は迷うことなく、小十郎の股間のモノを握り、そしてその奥に潜む穴の中に指を挿入した。
「んっ……」
小十郎の吐息が熱っぽさを増すと、政宗の鼓動が高まっていく。
「こっちに来てから小十郎は、大胆に感じるようになったな……」
こちらの時代、国の風習に感化されていないと言ったら嘘になる。
しかし、小十郎自身――政宗に感心される程感化しているという自覚はない。
「政宗様の方が変わられたのでしょう。むこうの頃より、技が細かい」
「そりゃ小十郎。こっちとあっちじゃ、時間の使い方が違う。互いに忙しくって、毎晩なんて無理だったじゃないか。だが、こっちに来てからは違う。毎晩でも抱ける。飽きられないよう、俺だって自分を磨くさ」
「その磨きを、出来れば別の方向に使って頂きたいのですが――」
――そう、あちらに戻る手段を見つける為のエネルギーに。
「なんだ、小十郎。おまえ、あっちに戻ること、諦めていなかったのか?」
「そういう政宗様は、諦めていたのですか?」
「諦める、諦めないの前に、異常現象だぜ? 俺らでなんとか出来る筈がないだろう? どうにも出来ない。向こうで何かしてくれていることを、祈るしかない」
「――祈る? その間に、情勢が変わっていたら、どうされます?」
「どうも、しない。変わっていたら、また変えればいい。違うか?」
「――少し、成長されましたか、政宗様……」
「ん? ああ。しっかり成長したぜ、小十郎。ぶっ込んでやろうか?」
小十郎の言った意味、政宗が聞き取った言葉の意味。
双方の意味がかみ合っていない中、小十郎の阻止も空しく、指でほぐされた体内の中に、成長しきった政宗のモノが貫く。
「くっ……政宗様……成長、し過ぎです」
「耐えろ。次期に慣れる。小十郎の穴だって、伸縮自在、成長しているじゃないか」
多少濡れていなくても受け入れられる程、入り口が緩くなっていた。
それを成長した証と喜んでいいものか、微妙である。
いつか、緩いと指摘されやしないか――小十郎は必死になって中に填っている政宗のモノをギュッギュッとお尻を絞めて締め付けた。
「くっ、いい締め付けをしてくれる。小十郎――」
「はっ、あっ……んっ……恐れ入ります、政宗様。政宗様の突き上げも、小十郎脳天まで貫かれそうな勢いに――」
「イッちまいそうか?」
ニヤッと不適な笑みを浮かべた。
イカセテクダサイ……
小十郎が懇願する。
政宗がそれに応え、自分も同時に果てたいと腰を激しく振る。
「そんなに激しくされたら……」
「そう言わずに持たせろ、小十郎」
――と、その時だった。
激しい爆音。
激しい振動。
人の悲鳴――
政宗は突っ込んでいたものを引き抜き、身体に何も羽織らず外に飛び出した。
その事態に、慌てて小十郎も後を追う。
一枚しっかり羽織り、手には政宗の分をしっかり握って。
「わいせつ罪で捕まります、政宗様……」
背後からそっと身体を覆うように被せると、それを払う勢いで政宗が振り返る。
「見ろ、小十郎。あの影、本多忠勝じゃないのか?」
指差した影を小十郎が凝視する。
「確かに。しかし政宗様。昨今巷を騒がせている殺人鬼がいるという噂はご存知ですか? その形、忠勝に似ていると小十郎は思ったのですが」
「殺人鬼? ジェイソンとか言うヤツか? 噂だろ。この時代、殺人は罪になると聞いた。罪を犯してまで人殺しするようなイカレやろうがいるものか。あれは、本多忠勝だ。時空をあけやがった。行くぞ、小十郎」
◆◇◆◇◆
「しっかりしてください、筆頭。小十郎様……」
情けない涙声が耳障りに感じた片倉小十郎は、クソ重く感じる身体をなんとか起こした。
自分の周りで歓声があがる。
状況を把握できない。
周りを見回し、自分の隣に横たわっている伊達政宗を見て、這うように擦り寄った。
「政宗様!!」
これでもかと耳元で叫ばれ、今度は政宗がウザッたそうに目蓋をあける。
「政宗様、気がつかれましたか?」
「ん? ああ。てめぇのうっさい声で、おちおち寝てられねぇ……って、なんだ、これ」
注目を一身に浴びていることに気付いた政宗が小十郎に問う。
しかし、小十郎も今し方気づいた為、説明が出来ない。
確か、関が原の合戦中――じゃ、なかったか?
それ以降のことがトント思い出せない。
ただなんとなく、時空がどうとか、13日の金曜日がどうとか言っていたような記憶が微かに残っているだけ。
夢、なのか?
戦(いくさ)の最中に居眠りをするとは到底思えない。
現実と夢の狭間。
どこからが夢、どこからが現実。
後々目撃情報から、ひとつの仮説が出来上がる。
あの日、あの時。
忠勝と政宗の一騎打ち。
勝ったのは政宗で、破れた忠勝が自爆したとか――
吹き飛ばされた政宗と小十郎。
その衝撃による記憶の混乱ではないか――
全ては夢。
しかし、夢にしてはあまりにも生々しいと思う小十郎だった。
―完結―