● 春の月 --- 光秀×小十郎 ●


「いい月ですね・・・・・・」
 執拗なまでに拘っていた織田信長を亡き者にしてから数ヶ月、彼にしては珍しく穏やかな日々を過ごしていた。
 血と肉を求め彷徨っていた自分の姿は、魔王と異名を持つ信長の存在が意味していたのではないかと思うくらいだった。
「こうやって月を眺めるなんてこと、したことありませんでしたからね・・・・・・私。くっ・・・・・・クククク・・・・・・」
 昔を思うと自然と不気味な笑いを曝け出してしまう。
 根本的に異質であることは隠せないし、もとより隠すつもりもなかった。
 こんな光秀ではあったが、家臣は自然と集まり、地の果てまでも行動を共にしてくれる忠誠心も備わっている。
 夜も深まり、皆が寝静まる時刻、光秀は自然と腰を上げ屋敷へと戻る為月に背を向けた、その時である。
「・・・・・・おや? 私が戦に明け暮れていた間に、随分と世の中は変わったようですね。空から人が降って来ましたよ・・・・・・クックククク。よく見れば、どこが見たような顔。はて、どこで見たんでしょう」
 ナイスタイミングで降って来た人を両腕で受け止めた光秀は、そのまま抱きかかえ屋敷へと帰っていった。


 湿った空気、ひんやりとする体感、身体の開放感が感じない中で、片倉小十郎は意識を戻した。
 伊達政宗に忠誠を誓うこの男がなぜ奥州から離れたこの地にいるのか、ここへ連れ戻った光秀にとっても少なからず興味はあった。
「お目覚めですか?」
 微動もしなかった小十郎の身体が微かに動いたのを見逃さず、光秀は声をかけた。
「よかったですね、貴方。運良く私の腕の中に落ちてきて。伊達軍はいつから空を飛べるようになったのでしょう。いやはや、とても興味あるのですよ。時間はたっぷりとありますから、お味方が迎えにくるまで、お聞かせ頂けますか?」
 語尾口調はとても優しげだが、光秀を取り巻くオーラは尋常ではない。
 意識がまだ虚ろであった小十郎にも、相手の素性がわからないこの時、既にそれを感じ取っていた。
 お前は誰だ―――
 頭の中で思ったことが言葉になるが、それが声となって出ることはなかった。
「あぁ、何か言いたげな感じですね。でも駄目ですよ・・・・・。あなた片倉小十郎でしょう? 顔に見覚えがあったんですよ・・・・・・クックククク。そんな腕のたつ男を野放しに私の城へ招き入れることは出来ませんので、簡単に拘束させてもらいました。クックククク・・・・・・いえね、私も以前豊臣に拘束されたんですけど、間抜けな兵士がちょっと猿轡を外した瞬間に、首を食いちぎって脱走しましたが、私は間抜けではありませんので、絶対に猿轡は外しません。よって、貴方は私に質問することは出来ない。私の質問には答えで頂きますけれどね・・・・・・首、縦に振ったり横に振ったり・・・・・・それ位はできるでしょう?」
 一方的に話す男の言葉で、相手の素性の察しがついた小十郎は、どこで彼との接点があったのかを思い出そうとするが、これといって目ぼしいことは思い出せない。
 ただ断片的に残っている記憶の中で、何かを探っているような感覚が残っていた。
 しかし、その感覚の中に、政宗の気配はない。
「さて、貴方・・・・・・ここが明智の領地だと知っていましたか?」
 明智―――その名に察しがついた人物の名が確定した。
 だが、ここがその明智光秀の領地あるかなど、知るはずもない。
 なぜなら、明智は行方知れずと聞いていたからだ。
 目の端が少し動いたのを光秀が感じ取る。
「そうですか、知らなかったのですね。では、なんでこんな山奥の辺鄙な所に居たのでしょう」
 それこそ、こちらが聞きたいと思うが、言葉にならない。
「黙秘・・・・・・ですか、まぁいいでしょう。私が憶測するに、貴方は私のいる場所より上に何かあったのでしょうね。足を踏み外し落ちてきた。そんなところでしょう。まさか本当に空を飛んだなんてことは・・・・・・ないですよね?」
 小十郎が答えるまでもなく、勝手に自己完結してしまっている。
 噂に聞く以上に、つかみ所のない人物らしい、この明智光秀という男は。
「尋問はこれくらいにして。実にいい眺めですよ、小十郎。クックククク・・・・・・手足の拘束に張りつけ、猿轡。色男って、何をしても絵になりますよね・・・・・・。まぁ、私ほどではないと思いますが」
 拘束された姿が絵になるなど、愚弄以外のなにものでもない。
 全くと言っていいほど動きの取れない身体を、悪足掻きの如く動かしてみる。
 縛りつけられた個所に痛みが加わる。
 その苦痛から猿轡をしていても呻き声が漏れ出す。
 くぐもった、なんとも特殊な呻き声である。
「クックククク、いいですね、いいですよ小十郎。その呻き声。あぁ・・・・・・もっと鳴かせてみたい。貴方の苦痛に満ちながら快楽に溺れていく姿を見てみたい・・・・・・」
 愚弄という言葉では表現できない程の屈辱の数々、張りつけられた板ごとへし折って目の前の光秀を切り殺してやりたい衝動にかられるが、それはそう思っただけで、実際には板を折るどころか手首すら動かせないでいた。
「無駄な足掻きは余計な体力の消耗。得策ではありませんね。一応、伊達の方には貴方を丁重にお預かりしていると伝達を出しました。迎えが来て、お荷物にはなりたくはないでしょう? 片倉小十郎としてのプライドがありますからね〜」
 その言動に驚く。
 拘束しておいて、伊達を呼び寄越し、それで光秀の方が無事なわけがない。
「おや? 私の心配ですか? それはありがとうございます。ですが、心配には及びません。こう見えても私、かなり戦略家なんですよ・・・・・・」
 そうだろう、そうでなければ、あの魔王と異名を持つ男を裏切ろうなんて思わないだろう。
 そう考えると、小十郎に危機感を感じる悪寒が背筋を駆け抜けた。
「あぁ、そんなに怖がらないでください。従順な者にはとても優しい人間なのですよ、私は。さぁ、楽しみましょう。貴方を迎えに来る者が来るまで、私特性のこの牢獄で・・・・・・。クックククク・・・・・・」

 張りつけられていた板は、小十郎を驚かせた。
 両手両足が括られている板は、自由自在に動くのだった。
 両手は左右に広げたままだが、ただ真っ直ぐ下に伸びていた両足が次第に左右に、肩幅よりも広く広がっていく。
 その後、前の方に足が上がっていき、ちょうど宙で座っているような体勢になる。
「クックククク、いい眺めです。もっといい眺めにしましょうね、小十郎」
 光秀の言葉と、彼の手先が動くのが同時だった。
 手にした刃の先を上手く使い、肌の薄皮を傷付けぬよう、身体を覆っている衣服だけを切り刻む。
「あぁ・・・・・・そんなに萎えてしまって。怖いのですね。でも大丈夫、直ぐに元気になりますから」
 露になった股間中央のモノの様子に苦笑した光秀は、中指をたて、その萎えたモノの奥にある穴の中に差し込む。
 差し込まれ、身体に違和感を覚えるが、それは最初だけで、次第にその場所からジワジワと熱く滾るものが生まれてくる。
「ふっ・・・・・・うっ・・・・・・」
 塞がれた唇、だが確実に悶えるような吐息を漏らしている。
「残念です。貴方が噛み付かないようでしたら、その猿轡を外して、艶やかな喘ぎ声を聞いていたかった・・・・・・」
 だがそこでふと思う。
 今入れた媚薬を増やせば、噛み付く余裕などなく悶え狂うのではないかと。
 一度入れた指を抜き、薄暗い中で仕込むと、またその指を中へと入れる。
 初めて入れた時は渇いていたその場所も、媚薬の力で今ではしっとりと、多少狭い間隔はあっても、滑るように指が根元まで入っていく。
「あぁ、感じているのですね。何に? もちろん私の指にですよね。ほら、萎えていたモノもしっかりと勃起までして。もう、指では物足りないのではないですか? 太いモノで掻き混ぜられたいでしょう? クックククク、でもだからと言って、そう直ぐには叶えてあげませんよ。じっくりと貴方が快楽に悶え、懇願する姿を拝めるまでね。それまでこのままです。足りないというならば、もっと媚薬の量を増やしますよ? 理性なんて欠片も残らないくらい、狂ってしまうかもしれませんけれどね・・・・・・クックククク・・・・・・」
 牢獄中に響き渡る、怪しい笑い声が小十郎の理性を保たせる。
 途切れ途切れになる理性を繋ぎ止めるもの、屈する訳にはいかない強い意志、政宗への忠誠だが、光秀の施した媚薬に屈しそうになる。
 そんな時、光秀の怪しい笑い声が響くのだ。
 しかし、そんな怪しい笑い声も遠のく程の刺激が小十郎を襲う。
「くっふっ・・・・・・んっ・・・・・・!」
 口を塞がれていてよかったと思う程の悲鳴を発していた。
 それを光秀は喘ぎ声だというが、こんな気色悪い行為で気持ちいいと感じる筈がない。
 小十郎には単なる苦痛への悲鳴にしかなっていない。
 しかし身体は違うらしい。
 萎えていたモノは勝手に勃起し、何度も果てている。
 果てているのに、また勝手に勃起し、辺りに白い液体を撒き散らすのだ。
「凄い凄い。媚薬で連続達したのは貴方が始めてですよ? 溜まっていたんですか? おかわいそうに。私が放出させて差し上げましょうねぇ・・・・・・小十郎」
 小刀の柄をグッと指の変わりに差し込む。
「どうですか? 指よりはいいでしょう。コレ、動かして欲しいですか?」
 小十郎が首を左右に振る。
 余計なことをするなと、目で威圧するが、一向に迫力がない。
「そんな目、単に熱っぽく潤んで、もっと刺激が欲しいと強請っているようにしか見えませんが、もしかして強請っていますか?」
 光秀は自分に都合よく解釈するが、小十郎の身体は光秀の解釈をとても喜び感じ取っている。
 苦しくて身体と心と思考が分離しそうになる。
 そんな小十郎の頬を冷たい感触が触れる。
 光秀の手だった。
「顔が半分隠れるこの猿轡は邪魔ですね。外しましょう。今の貴方に、私の肉を噛み切って逃走する気力はないでしょうし。こんな露な姿で逃走もなにもないですよね、クックククク・・・・・・」
 下半身の責めている個所だけが破けた服。
 腰につけていた刀も今はない。
第一、 媚薬の効果で、身体が意のままに動かない。
 逃げたくとも逃げられない現状は、小十郎が一番よく理解していた。
 金具が外れる音と共に、隠されていた顔に空気があたる。
 その個所に開放感が漂うが、それと同時に股間の後ろから激しい刺激がくわわる。
「ぐっ・・・・・うっんっ、あぁ・・・・・・っ!!」
「あぁ、やっぱり。ちょっと奥へ押し込んだら、いい声。たまりません・・・・・さぁ、鳴きなさい。いい声で、感じるままに・・・・・・!!」
 小刀の柄が、小十郎の胎内を行き来する。
 奥に差し込まれる度に口元から飛び出る声。
 片倉小十郎という生き物ではないような、淫らな声。
「いいですよ、いいですよ・・・・・・。さぁ、鳴きなさい。悶えなさい。共に快楽の世界に浸りましょう」

 少し退屈になりかけていた光秀にとって、小十郎の出現は、恰好の新しい玩具であった。
 光秀は最初の言葉通り、小十郎を大切に時には激しくもてなす。
 彼独特の快楽という世界観で―――



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