隠れ家

佐助×小十郎


 主だった町々では、あるひとりの人物を探して大騒ぎとなっていた。
 きっかけは些細なこと。
 だが、たまたま同時期に多数の事件が重なり、些細な事が大掛かりとなってしまっていた。
 その事実を、まだ当人は知らない。


 ★★★

「どう? 少しは回復した?」
 佐助は数日振りに見る、片倉小十郎の顔色を見ながら訊ねた。
「まあまあだ。特に悪くもないし、いいとも言いがたい」
「そう。ならいい傾向なんじゃないかな。最近、めっきり寒くなったから、季節の変わり目、健康体でもダルさは感じる」
「忍びでも、感じるのか?」
「忍びって言ったって、同じ人間。感じる時は感じる。例えば、こんなこと――」
 佐助の唇が軽く触れてきた。
 小十郎はそれを拒むことなく、ただ固まったまま動かない。
「あれ? はじめて……だった?」
「いや。ただ、忍びでもすることはするのだと、少し驚いた」
「驚いたって、なんかさ……忍びに対して偏見抱いていない?」
 それに対して、静かに笑う小十郎の姿を見ると、これ以上何も言えなくなってしまった。

 かなりつわものの武人である片倉小十郎が臥せっている。
 相当の心労なのだろう。
 何があったかなんて聞くのは野暮というもの。
 慣れない間者仕事でもしたのだろう。
 町中の騒ぎから察することくらいしか、探った情報は得られなかった。
 ま、本来の仕事の合間、限られた時間しかなかったのだから仕方がない。
 溜息と共に、やっと佐助も畳の上に腰を落とした。

「やっと、落ち着いたようだな」
「なに?」
「おまえ、殆ど畳に腰を下ろすことをしないだろう。癖か、習慣かは知らないが……そうやって寛いでくれるということは、周りに敵がいない、気を張る必要がないという表れ」
「――しっかり、観察されていたのか。やはり、弱っていても片倉小十郎、侮れないな」
 真顔で返す佐助に、今度は小十郎が溜息をついた。
「何をそんなに気にしている? やはり、俺を匿っているのがヤバイのではないか?」

 半月ほど前、気が付いたらこの家の中にいた。
 人の気配がしない家。
 たった一枚の置手紙と、着替えの着物、当分は足りるであろう食料と、薬草で作られた薬が置かれていた。
 『勝手に抜け出すな。数日で戻る。 佐助』
 佐助の名で思い当たるのは、甲斐の忍び――猿飛佐助。
 ――と、いうことは……甲斐のどこかということになる。
 敵地ではないが、現地がわからないまま放浪する程の気力がなかった小十郎は、佐助の対応に甘える道を選んだのだった。
 そして数日後、戻って来た佐助は、意識を取り戻した小十郎に安堵。
 更に数日の任務に就き、今回ここに顔を出したのだった。
 何も訊かない佐助の対応に、深く感謝しながらも、いつまでも甘えてはいられないと思うこの頃。
 ただ、まだ思うように身体が動かない。
 それがもどかしい。

「ヤバクはない。実際、お館様に話せば屋敷に連れ戻り、専門の医者に見せようと言うだろう。ただ、それをあんたは望んでいない」
「なぜ、そう思う?」
「知らないのか? 町ではちょっとした騒ぎになっている。あんたが探っていた輩のアジトがここらにあったのは偶然。だが、その輩たちが、ちょっとデカイ仕事をした。そして、顔を見られている。その中に、あんた似の顔が――」
 人相の悪い顔というものは、たいてい種類が似ていたりする。
 小十郎も、顔に傷さえなければ、似顔絵に似ているなどと佐助も思わないだろう。
「何を勘違いしている? 俺は盗人に探りを入れる程暇人じゃねぇ」
 と、小十郎は濁したが、少なくとも巻き込まれているのは間違いない。
「なにんしても、あんた自身、探られたくないだろう? だったら、ほとぼり冷めるまでここに隠れていた方がいい。一応、俺ら忍びの隠れ家ってことになっているから、お館様に知れることも、旦那に嗅ぎ付けられることもない」
 信用しきっているわけではないが、佐助が見せる珍しい真顔に、小十郎はもう暫く世話になるとだけ、答えた。


 ★★★

「ひとりで平気か?」
 夕刻、少し離れた場所に秘湯があると言う佐助の言葉に誘われ、彼に半ば背負われて辿り着く。
 これ以上は頼れないと、ひとりで平気と言い張り脱衣、そして湯に浸かる。
 秘湯というだけあり、周りは自然に囲まれ、とても人が入りに足を運ぶようなところではない。
 広さも、辛うじて足を伸ばせるという程度。
 その広さの中、大人の男かふたり入るなどというのは、少し無理がある。
 しかし――
「やっぱり、夕暮れは冷えるね……」
 引き締まった肉体美を披露して、佐助が割り込んで来たのだった。

「狭い――」
「ん? そんな冷たいこと、言うなよ。担いで来た俺を労ってよ」
 いくつか残る傷跡も、男の勲章。
 それは小十郎も負けてはいないが――
「俺のは、実戦でというより、訓練時代の傷だよ」
 佐助は軽く言い流して笑う。
「根本的なことが、違うのだな」
「そうだね。だから、あまり背負って無理しなくていいんじゃないの? 伊達軍にだって、間者を専門とする者くらい、いるでしょ」
「ああ……だが、それではダメなこともある。実際、自分の目で見なくては」
「そんなことを言っていたら、命いくつあっても足りない」
 佐助に悟られる。
 全てを見透かされているように――

「やはり、狭い」
 これ以上見透かされてなるものか……そんな気持ちが先行し、先に出る口実として狭さを強調。
 しかし――
「こうすれば、狭くない」
 軽々と抱きかかえられ、佐助の膝の上に乗せられてしまった。
 そうなると、肌が密着。
 股間のアレが直に当たり、落ち着かない。
「余計、狭く感じる」
「どこが? もしかして、ココが反応してデカクなったから?」
 佐助が小十郎の股間に触れてくる。
「やめろ……」
 触れる手を払うが、払う力より触れてくる力が増している。
 体力が完全に戻っていない小十郎など、まったく相手ではないように……

 触れる佐助の手は、そのまま奥に隠れている秘所を探して動き、閉じた中へと指を突き立てた。
「くっ……どこ、指入れて――」
「とても、いいところ。少し、俺を労ってもらうよ」
「ただ、疲れるだけだろう?」
「違う。快適な疲れだよ――こういうのって。俺もひとりの男だからね、人並みに欲情するの。特に弱ったあんたなんて、かなり美味しそうに見えるってわけ」
 入る指は二本。
 遠慮なく中を広げて動きまわる。
 跳ねる水しぶきと共に、小十郎の声にならない吐息が漏れ出す。
 腰を抱いていた佐助の腕がそのまま下へと動いて、次第に硬くなっていく小十郎のモノを更に掻き立てるように擦り上げる。
「んっ、くっ……」
「きもちいい? なぁ、自分の指で乳首も弄ってよ」
 小十郎の手は、佐助の手の動きを拒むように、彼の手の上に重なって置かれていた。
 佐助の言葉には逆らえないのか、その手は言われるまま乳首へと触れていく。
「どうなっている、乳首」
「――硬い……」
「豆のよう?」
「ああ……」
「じゃあ、指で摘んで転がして、楽しみながら感じて」
 指先に力が集まり、言われたように摘む。
「くっ、うっんっ……」
 痛みとそれ以上の高ぶる感覚が込み上げていく。
「気持ちよかったんだ――感じやすい身体をしている」
 小十郎の反応に満足した佐助のアレも、大きさと硬さを増していた。

 指で広がった秘所の中に、その変化したモノが入っていく。
「あっ、あぁ……っ、くっんっ……」
「つらい?」
「平気、だ――だが、焦らすな……」
「わかっている。焦らす程、今の俺に余裕はないよ。小十郎――あんたの中は暖かくて、気持ちがいい」
 ズンッというような衝撃が身体を貫く。
 それが奥まで入った感覚なのだと、小十郎の身体が学習すると、続いて押し寄せては引く波のような衝撃が行き来しだした。

「はっ、あっ…んっ……」
 艶を帯びた、甘い吐息と、歓喜にも似た弾ける吐息とが交互にあふれ出し、しっかりと佐助のモノを締め付けて離さない。
 次第に揺れ動く身体は、下から突き上げる佐助の動きに合わせるように上下に動く。
「――さ、すけ?」
「なに、小十郎。気持ちよくて、頭が真っ白な感じだろ?」
「んっ、熱い……水が入って――」
「それだけ、緩やかになっているってこと。それでもしっかりと咥えてくれて、嬉しいよ」
 小十郎の首筋に、佐助の唇が触れる。
 そのまま歯をたてられ、噛まれるかと思うくらい、歯が触れて吸い上げられる。
「くっ、はっ……!」
 身体を仰け反らせて喜ぶ。
 その動きがまたいっそう、佐助のモノを締め付ける。


 水中に白い液体が撒き散ったのは、それから暫くたってからのこと。
 まだふたりは繋がったまま、身体を半回転。
 小十郎を背後から突き上げる形で楽しんだ。


 ★★★

「少し、熱が出てきた」
 頬が赤い小十郎の額に、自分の額を当て、佐助が呟く。
「少し、無理をさせ過ぎたかな――」
 続けて付け加えた言葉に、小十郎は何かを言い返そうと口を開いたが、上手く言葉にして伝えられなかった。
「ああ、呂律(ろれつ)がまわらないくらい、朦朧(もうろう)としちゃっている?」
 それに対しては、静かな溜息をついて返した。
「悪かったね。だけど、後悔はしていない。もう暫くここで療養していくといい」

 小十郎の熱が下がったのは、それから数日後。
 粥から普通のご飯を食せるまで回復したのを確認すると、佐助はまた新たな任務で隠れ家を去っていった。
 次戻ってきた時、もう小十郎の姿はないだろうと思いながら――

 その予測通り、佐助が出た後、小十郎も少しけだるさの残る身体を引き摺って、帰路へとついたのだった。



 ★ 完結 ★

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