追想

佐助×小太郎

 遠い遠い昔。
 まだ佐助が忍として歩き始めた頃。
 幾度となく繰り返される模擬訓練の最中、組からひとり外れて一夜野宿をしたことがあった。
 ひとりでする野宿の心細いこと。
 本来、佐助は人当たりがよく、いつも誰かと共にいた。
 忍としては向かないのではないか――そんな声も出始めていた。
 今が踏ん張り時。
 そんな時のこの失態に、佐助は苛立ちとなんとも言えない情けなさで、いっぱいになっていた。


 ◆◆◆

 偶然見つけた洞穴。
 まだ奥に道は続いていたが、奥に進む勇気がない。
 かといって、入り口付近では、誰かに狙われるのではないかという不安から、出るに出られない。
 外も見えて、しかし外からは中を覗きこまないとわからない、そんな場所に腰を落とし、気配を消して蹲(うずくま)った。
 里から逃げたんじゃない。
 逸れただけだ――
 何度も言い聞かせる。
 逃げは、抜け忍として扱われ、追っ手を差し向けられる。
 生き延びた忍はいないと聞く。
 抜け忍の成れの果ては『死』あるのみ。
 まだ自分は歩き始めたばかりなんだ。
 こんなところで終われない――
 少し気持ちが浮き上がる。
 夜が明けたら里を目指そう――と、前向きになりかけたその時、洞穴の奥深くから呻き声が聞こえた。
 誰かいるのか?
 怖くても奥まで確かめておくべきだった――今更後悔しても遅い。
 おかっなびっくり、声のする方へと向かうと、黒い物体が転がっている。
 良く見れば、自分と大して歳の差のない少年。
 荒い息遣いは遠目からも明らかだった。

「病気? それともケガ? この辺に、村なんてあったっけ?」
 森林生い茂る山の中。
 到底普通の人間が住んで暮らしていけるような土地ではない。
 あるとすれば、佐助がいる里と同じ人種。
「もしかして、同業者見習い? でも、俺の知る限り、見たことない顔だよな」
 里の中では顔の広い佐助。
 その佐助が知らない忍見習いって、いたっけ?
 なん度繰り返し思い返しても心当たりがない。
 このまま見捨てた方がいい。
 それが正しい判断なのだが――

「これ、良く効く薬だ。解熱と炎症を抑える。あんた、スゲーケガしているじゃないか。どうやったら、そんなケガ。どこの里の者だ?」
 聞いたところで、今のこの状態で言葉が出せるとも思えない。
 それ程の深手であった。
 冷えていくからだ抱きしめ、自分の体温を分け与える。
 いずれ敵となるかもしれない忍を助けている。
 里に知られたら、ただの説教やお仕置きでは済まないだろう。
 それでも、佐助は今にでも息絶えそうなこの少年を見捨てることができなかった。
 訓練された結果は、無意識なままでもしっかりと反映されている。
 飲ませようとした薬を受付ない。
 仕方がない――そう、仕方がなかったんだと、言い聞かせ、口移しで無理やり飲ませる。
 咽返し、戻そうとする行為を力で押さえ込む、
 口を塞ぎ、鼻を摘み、そうすることでやっと飲み込んでくれた。


 ◆◆◆

「やっばり、あんた――あン時の忍か……まさか、伝説の風魔見習いに出逢っていたとは――」
 敵を引きつけ囮となったのはいいが、相手の方が何倍も上手だった。
 少し血を流し過ぎた――意識が朦朧とする。
 身体に力が入らない。
 半ば死人のように横たわっていた佐助に触れる人物がいた。
 それが目の前に立つ、風魔小太郎だったのだ。
 口移しに何かを飲まされ、咽喉を流れる水の潤いで、やっと言葉が出る。
 眠っていた記憶は、口移しの感触で蘇ったのだ。
「なに? あン時のお返しか? けど、こんな偶然て、あるのかね……」
 別に答えを期待して言っているのではないが、反応がないのはやはり虚しい。
「あン時も思ったけど、相変わらず無口で――成長してねぇな……けど、伝説の忍って言われる腕してンだよな――」
 伝説とかそんなのはどうでもいい。
 ただ、大して歳の差もないのに、腕の差を見せ付けられるのは、無視されるよりも堪える。
「結局さ、追っ手が急に消えたのって、あんたが片付けてくれたってことだよな――情けねぇ……あン時のお返しにしちゃ、こっちが釣りを払わなきゃならなさそうだ」
 そんなものはいらない、そう言いたげそうな雰囲気を出し、小太郎が去ろうとする。
 その一瞬に、佐助は手を伸ばし引き止めた。
「まだ行くなよ。わけわからない場所に、俺を残して行くなよ――」
 引き止めた腕を引き寄せ、倒れ込む小太郎の唇を奪う。
「水が欲しい。口移しで」
 佐助のわがままに、小太郎は応える。
「……っ」
 ただ水を口移しで飲ませただけの筈が、舌が絡んでくる。
 小太郎の身体が佐助から逃げようとするが、本当にケガ人なのかという凄い力で腕を握られ、その場所から逃れられない。
「今度はもうないかもしれないから、今釣りを払っておくよ。あんた、こういう事はしたことないだろ?」

 浮世離れしているのが普通の忍だが、佐助は忍として人としてを上手く使い分けていた。
 一通り、一人身の人としての経験はある。
 口移しが接吻になることも、その先の行為も。
 知らない方がつまらない人生じゃないだろうか、そんな経験をさせてやれることで、釣り返しをしようと思ったのだ。

 案の定、小太郎の身体は初体験の人独特の反応をする。
「逃げるな。いい経験になる」
 ケガ人が何を言っても、説得力ないが、さすが忍が所持する薬だけはある。
 効果覿面、かなりの即効性がある。
 止血され、痛みが緩和。
 身体のけだるさも、比較的ラクになった。
 一回抱く程度の体力はある。
 戦うことを考えれば、大した体力ではない。
 絡み合う舌同士。
 佐助の口内、小太郎の口内と行き来して、やっと離れる。
 相手に休ませる間を与えることなく、佐助の舌は小太郎の首筋に愛撫。
 服を脱がせつつ、胸の突起に吸い付き、軽く噛む。
 ピクッした後、ビクビクッとする。
 何かする度に見せる、小太郎の反応が楽しい。
 愛いヤツ――あの溶きと同じ気持ちを今も感じていた。


 佐助のモノが小太郎の体内に入り込んだのは、それから間もなくしてからのこと。
 身体がすっかり佐助の愛撫に翻弄された頃、隙をついて挿入した。
 痛みを感じないよう、小太郎が持っていた薬を飲ませ、痛みの緩和の手助けと使った。
 忍といっても、年頃の男児。
 初めての快楽に購えるはずもない。
 拷問に耐える身体作りはしていても、強姦に耐える身体作りはしていなかったらしい。
 強姦とも違うが、抱かれる経験をさせなかった、風魔の里の方針に、感謝すらした。
「いいぜ、本当に。おまえの中、温かい。冷たい態度取るヤツ程、体内は温かいって聞いたことあるけど、本当だったな」
「ッ……ンッ……」
 吐息が強調されるような、喘ぎ声にはまだ遠い。
 それでも無口な男がこれだけの反応をしてみせる。
 それがどれだけのものなのか、計り知れないが、佐助はそれで充分だと思った。
 また今度出会えたら――楽しむということを教えてやりたい。
「だからさ、今回は俺様の全てを見せないぜ。手の内は少しずつ見せないと、な」
 ただ入れたモノを抜き差しするだけの動き。
 それだけでも、吐息を漏らしてくれた小太郎。
 今度、更なる上の技を体験させたら、いい声で鳴いてくれるだろうか。
 楽しみをひっそりと胸にしまい、適度なところで小太郎を解放したのだった。


 ◆◆◆
  
「ちっ……余韻もなしに、『さよなら』かよ。味気ないヤツ。けど、昔と変わらないところを見れて、嬉しかったぜ――小太郎。またな」
 小太郎が走り去っていった方向を見る。
 彼の背中は見えないが、時々木々が揺れている。
 それは小太郎が飛び移った形跡。
 
 またな――その言葉が何度も頭の中で木霊していた。


  完結

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