Vain Thought〜儚い想い〜

モクジ

  佐助×小太郎  

「何をしているのだ、佐助」
 最近こそこそと何かをしていた佐助の行動。
 それに興味を抱いた真田幸村は、その現場をしっかりと押さえ、当の本人に直接問いただした。
「あちゃ……旦那。見つかっちまったか」
 少し都合が悪そうな顔を見せながら言っているものの、それほど見られて困るようなものは周りに見当たらない。
 佐助以上に不可解な顔をしたのは、問いただしている幸村の方。
「最近、ちょくちょく出かけているようじゃないか。お館様の命というわけでもない。何をしているのだ?」
「ああ、いや……きっと旦那にはとんと縁のないことだと思うンですがね……知りたいですか?」
「そりゃ佐助。そうまで言われたら、興味が更にわく」
「――だよな……絶対、他言無用ですよ?」
 と、言われてバカ正直に言わない人は、殆どいない。
 佐助はまぁ仕方ないと半ば諦め、幸村に事の次第を打ち明けた。

 遡る事一月前、ちょうどお館様の命にて奥州偵察に行った時のことだった。


 ◆◆◆

「ばれんたいん……なんですか、それは」
「珍しいな、小十郎がこういう俗事に興味を示すなんて」
 目新しいもの好きの伊達政宗が、また目新しい書物を南蛮人から取り寄せたらしい。
 その書物を読むことに夢中の政宗を気遣い、少しでも役立ちたいと、小十郎か辛うじて読み取れた言葉を聞き返していたところだった。
 天井上から覗く猿飛佐助にも、その『ばれんたいん』という聞きなれない言葉に興味がわく。
 果たして、その意味は――

「Valentineっていうのはだな、愛の告白をする日ってことらしい。正確には、Valentine’s Dayっていうらしい」
「愛の告白――政宗様、日本男児たるもの、そのような戯言、むやみやたらと口にするものではないかと……」
「小十郎……おまえなら、そう言うと思ったぜ。だが、言葉で言えない想いっていうのを物に託して伝えるって習わしらしい」
「物――ですか。それはそれで、なんというか……で、何を?」
「記述によれば、ちょこれいとって代物らしいが……俺はまだ見たことも口にしたこともないな」
 ――と、ここまでの流れを聞き、佐助は奥州を離れる。
 南蛮から伝わってきた『ばれんたいん』なる行事。
 託すものは『ちょこれいと』という代物。
 南蛮――思い当たる人物がひとりだけいた。
 ザビーとかいう怪しい宗教。
 入信する気はないが、こっそりと忍びこんで探ることにした。


 ◆◆◆

「――で、ザビーのところで得た情報通りに作ってはみたんだが……」
 と、作りかけのその物体を、隠し扉の奥から引っ張り出し、幸村に見せた。
「な、なんだ。この黒々とした、ねっとりとした物体。これが佐助の言う『ちょこれいと』って代物か?」
「ん〜……その筈なんだけどね。試しに、旦那。食べてみてよ」
「佐助。この幸村に毒味を?」
「毒味っていい聞こえじゃないよ、旦那。ちゃんと俺も食べてみたし」
 いくら作った本人が食して見たと言ったところで、美味であるとは言っていない。
 躊躇する幸村に、それ以上勧めることの出来ない佐助は、ひとまずその物体を、元あった場所へと戻す。

「それで佐助。おまえはその奇妙な物体を誰に渡すつもりだ?」
「そう、それよ、旦那。よくぞ聞いてくれた。渡す相手はなんと! 伝説の忍『風魔小太郎』」
「――佐助……いや、すまない。この幸村、少し佐助に頼り過ぎていたようだ。疲れ、溜まっているのだろう。幸村からもお館様に進言し、暫し休暇を与えるよう、頼んでみる。里帰りするなり、ゆっくり養生しろ」
「――いや、旦那。俺、疲れていないし。最近、忍の仕事ないし。平和そのものだし……至って正常なンだけど……」
「では、どうしたというのだ? 伝説の忍。伝説というのは、あくまでも仮定の話で、実在はしない」
「いや、伝説の忍はいる。今、この時世に存在している。俺はガキの頃聞かされていた風魔小太郎という人物に憧れていた。その人物らしき者が北条に仕えていると聞いた。旦那、憧れなんだよ……俺の」
「憧れ……うむ、その想いはわかる。幸村も、お館様の存在そのものが憧れで……だが、佐助。伝説の忍がいたとして、どうやって渡す? 相手は伝説の忍だぞ? いくら佐助と言えど、簡単には行くまい」
「そう、なんだよね。だから、少し策を練ってみた。聞く?」


 ★☆★☆★

 世界が闇に覆われ、人々が寝静まった頃、佐助はひとり、北条氏政の城に忍び込んでいた。
 下調べはしてある。
 向かう先は、傭兵として仕えている風魔小太郎のいる場所。
 この城のどこかに、隠し部屋があるはず。
 そこに風魔が匿われていると、的を絞った。
 闇に紛れて仕事をする、そんな人物が居つくには、地下だろう。
 佐助は城の地下を調べ、ひとつのからくり扉を見つけた。
 きっとこの奥に伝説の忍がいる。
 長きに渡った、想いが叶う時。
 胸が躍らないわけがない。
 ――が、相手は伝説の忍。
 簡単に対面できるものでもない。
 佐助はこっそりと睡眠薬をその隠し部屋にばらまいた。
 カタッと何かが音を立てる。
 きっと小太郎が倒れたのだろう。
 自分に睡眠薬が効かぬ薬を予め投与し、部屋の中に踏み入ったのだった。


 部屋の中に転がっている人物、それが会いたいと願い続けていた伝説の忍である、そう忍の直感が訴えていた。
「風魔小太郎……会いたかったぜ。どんな爺さんかと思ったら、随分と若い。代々風魔小太郎の名を受け継いでいる、そんなところか。ってことは、俺が聞いた風魔小太郎の話は、おまえの何代前の小太郎になるんだろうな――」
 かすかな寝息だけが耳に入る。
 当分、目覚める予定のない人物に対し、返って来ないと知りつつ問いかけずにはいられない。
 それほど興奮が止まらないのだ。

 やばい――
 興奮がムラッと来る衝動に変わる。
 意識のない、しかも男にムラッとくるなんて……
 整った綺麗な顔が、佐助を誘惑しているのか。
 それとも、まだ知らない声、目を開いた顔を想像して、佐助の想いが誘惑させるのか……
 このままでは収まりそうにない。

 手にしていた『ちょこれいと』の入った壺を置き、片膝付いて小太郎を更に間近で眺める。
 収まらない興奮が、佐助の意思を超え勝手に身体が動きだした。
 忍ばせた手は、小太郎の下半身へと迷わず伸びで弄りだす。
 衣服を手早く脱がせ、隠された秘密の場所へと、指が侵入していく。
「狭い……」
 指一本も難しい狭さに、普通ならこのまま諦めるのだが、この時は欲だけが勝手にひとり歩きしてしまっていた。
 何か濡らせるモノ――
 佐助の視線は迷わず持ってきた壺へと向かう。
 とても美味とは言いがたい『ちょこれいと』
 口にしては貰えないだろう。
 ならば、こっちの口から味わって貰っても別に構わない。
 むしろ、こっちの方が使い勝手があるんじゃないだろうか。
 冴える思考に身体は迷うことはない。
 指に絡めた、固まり害いの液体を小太郎の秘密の穴に塗り込んだ。
 甘ったるい香りが漂う。
 しかしそれ以上に食欲を促進するような物体が目の前にある。
 穴からこぼれ出る『ちょこれいと』
「ダメじゃないか。こぼしちゃ……締まりのない穴には栓をしなきゃ……」
 取り付かれたように、佐助の身体は動く。
 欲情に忠実に――


 冷たい、それが最初に感じた感覚だった。
 火照る身体を冷ますような冷たさ。
 しかしそれをも超える欲情が勝る。
 そのまま挿入していくと、程よく溶けた『ちょこれいと』が滑りの緩和を手助けし、狭く硬い体内の滑りがいい。
 奥深くまで辿りつくと、佐助は吐息をこぼす。
 これから始まる快楽の幕開けに、生唾を飲み込み、息を整え――更に奥へと貫いた。
「この感覚、女と変わらないな――」
 久しく抱いていなかった女の温もりと変わらない感覚に、興奮が絶頂へと登りつめていく。
「止められるかよ……」
 本能剥きだしで腰を使って奥へ。
 そのまま引き戻し、再びまた奥へ。
 それを何度も繰り返すうちに、狭く感じていた小太郎の体内が適度な締め付けをするように変わっていった。
「これであんたがいい声で鳴いてくれりゃ……最高なンだけど……そこまで望んじゃ、絞め殺されそうだ」
 どんな状況であっても、相手は伝説の忍。
 安易な欲は自分の死を意味する。
 だけど――
「けど、このまま突っ込んだ状態で死ねるなら、本望ってね……。だが、やることはやる男、それが猿飛佐助ってね」
 射精するまで死ぬに死ねない。
 だったら、声は諦めるしかない……
 相手の吐息が甘く熱っぽくない、それがやや佐助にとっては不満でもあった。
 それでも動かすことは止まらない。
 それだけいい身体をしていたのだった、風魔小太郎は――

 何度も何度も繰り返し貫くと、次第に相手の身体が変化していく。
 目覚めが近いのか――
 寝息が目覚め近いことを示し始める。
「そろそろ……か」
 これ以上ない程の激しい突き上げを繰り返す佐助。
 既に小太郎の体内では、佐助のこぼす白い液体と『ちょこれいと』の成り損ないが混ざり合っていた。
「これで、最後だ――」
 言葉が合図となり、豪快に射精。
 溢れ出た液体は、白と黒の混ざった異様な物体だった……
 それを目の当たりに、収まりかけていた感情が再浮上する。

「二度美味しいって、こういうことか?」
 前から突っ込み、今度は後ろから。
 横填めっていうのも、いいかもしれない……収まることのない欲望。
 再び佐助のモノが小太郎の体内を貫く――


 ★☆★☆★

「佐助――!!」

 突如、佐助の身体に激しい痛みが走る。
 脳天からまっ逆さまに落ちていく痛みと、鳩尾から胃を抉られる痛み。

「だ、旦那? ひど……」
 苦痛に歪んだ顔で、幸村を見上げる。
 まだ話は終わっていない、そんな意味も入っている視線で。
「酷いのはおまえだ、佐助。やはり疲れているのだ。よからぬ妄想は身を破滅する。お館様に、進言しよう。佐助に暇をやってくれ……と」
「え? ちょっ……暇って。か、解雇?」
「解雇、それも仕方あるまい。そのような破廉恥極まりない妄想を抱いた忍が、まともな任務を遂行できるとは、到底思えない」



 その後、逆恨みとも言えるような行為を、伊達政宗にしてやったのは、言うまでも無い。
 ――が、結果は……


 完結
モクジ

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