笹に短冊
佐助×小太郎
――願いは、ただひとつ
◆◇◆◇◆
竹林の中に佇む一軒の家。
傍から見ただけでは、人が生活をしている気配はない。
しかしその家中では、人知れず暮らす者がいた。
世間的には絶対に認められないふたり。
そのふたりがこうして人知れず落ち合うのは、年に一度。
巷に流れる星の伝説。
戦国の時代だからこそ、真実性が高まっていく。
敵と味方。
仕える者が変われば状況も変わる。
そんなふたりだからこそ、今日という日は特別であった。
ヌッ……と無言で差し出されてドでかい笹。
そんなデカイ笹、どこに置くのさ――つい口からツッコミが出そうになり、佐助は慌てて言葉を飲み込んだ。
身振り手振りで伝えることで、小太郎が判断して取ってきた笹。
文句を言えるはずもない。
――ま、いいか……俺様がまた短冊を作ればいい
佐助は新たな意気込みの中、色とりどりの紙を宙に放り投げ、クナイと手裏剣を使い、サクサクと短冊をこさえていった。
しっかりと厚みが感じられる程の短冊を作り終えると、ふたり分のすずりにふたり分の筆を用意。
これまた丁寧に墨を下して、隣に座れと小太郎を手招き。
無言だが、素直に隣に座る小太郎を愛しいと改めて感じつつ、佐助は用意した一式を小太郎に手渡した。
「いいか、小太郎。これが短冊。こっちが筆とすずり。この短冊に願い事ひとつ書いて、あの笹に吊るす。わかるか?」
なぜ笹に短冊を吊るすのか。
なぜ短冊に願い事を書くのか――
そんな細かい説明はいらない。
ただ書いてくれさえすればいい。
そして今夜、空を流れる星の川を眺めながら、小太郎を美味しく堪能出来さえすれば、また1年頑張っていけるというもの。
佐助の願いはただひとつ。
いつまでも変わらない願い。
それ以外の願いはとりあえず叶っていることで、小太郎と出会えてから変わることのない願いがある。
しかし、小太郎はどうだろうか。
殺戮という暗い場所でしか生きていけない彼に、願いはあるのだろうか。
もし、陽の当たる場所に出たいと願うのならば、このままさらってしまえばいい。
一生追われる身となるなら、佐助自身もその片割れを補う覚悟がある。
だがきっと、小太郎の望みは違う。
勘と言えばいいのだろうか――佐助にはなんとなくそれがわかっていたのだった。
無言で言われるまま筆を手に短冊に文字を書く小太郎の姿。
横から眺めつつ、動く筆を見て記されていく文字を盗み見る。
ところが――
――達筆過ぎて読めない……
それでも意外な一面を発見できたことで、佐助はひとり浮かれ気分に浸っていくと、自分に注がれる熱い眼差しに気付いた。
◆◇◆◇◆
夜空を飾る数々の星たち。
その中でひと際目立つ星の川を指差し、佐助は小太郎に話す。
天の川と呼ばれる星の川を挟んで光るふたつの星。
彦星と織姫。
その星の伝説を――
――さしずめ、俺様が彦星で小太郎が織姫ってところか
なぜ自分が織姫と呼ばれたのか、小太郎にはさっぱり。
佐助にしてみれば、抱いているのが小太郎だからお姫様だという程度の認識しかない。
それでも小太郎にしてみれば嬉しいという気持ちに近いものを感じていた。
殺戮以外で必要とされている事実に。
小太郎を背中から抱きしめ、同じ夜の空を仰ぎ、星を見る。
その下では、しっかりとひとつに繋がり、相手を感じながら。
小太郎の口から漏れだす甘い吐息。
わざと小太郎の耳元で吐く、佐助の息。
そのまま舌を耳の中に忍ばせ、ゾクッと身体を振るわせさせ、弄る手は容赦なく彼のモノを握っていた。
その手に白い液体が汚していく。
「もう? 相変わらず小太郎は感じやすい身体をしている」
言葉で刺激を浴びせさせ、更に体内から快楽を施す。
それでも小太郎は声にならない吐息をこぼすだけ。
◆◇◆◇◆
俺様の願いはただひとつ――
おまえの声が、き・き・た・い――
夜風に靡く笹に吊るされた数々の短冊。
それに込められた願いは――
◆◆完結◆◆