● 想いは遥か・・・・・・ --- 武田軍×小十郎 ●


 小十郎の耳に政宗の危機が伝わったのは、彼が屋敷に戻ってすぐのことだった。
 暫し留守していた間に、放浪癖のある奥州筆頭伊達政宗が小十郎の心配を現実のものとしたのだった。
 踵を返し、馬を走らせ山越えをする。
 馬を変えてくる時間をも惜しむ、その慌て振りに、政宗への忠心振りが伺えるのだが、彼の場合は少し行き過ぎであることもあった。
 まぁ、政宗の性格も災いしていのだろうが。
 後を追った他の家臣。
 しかし小十郎に追いつくことは中々できなかった。
 疲れていた馬をそのまま使っての強行でなければ、恐らく敵地に着くまでに追いつくのは無理だっただろう。
 彼の慌て振りに感謝した程だった。
「お待ちください、片倉殿」
 呼び止められる声も届かないのか、前方だけを見据え馬の手綱を必死に握っている。
「そのまま単身戦でもなさるつもりですか!!」
「そんなこと、政宗様は望んではおりませぬ、きっと」
 政宗・・・・・・様―――
 その言葉に荒立ち焦っていた気持ちに歯止めがかかりはじめる。
 馬の走行速度が落ち、追いかけてきた家臣の馬が小十郎を脇を固め、彼の動きをやっと止めることが出来たのだった。

「相手はあの武田信玄の手中です。力づくでは敵いますまい。あの政宗様が落ちたのですから」
 悔しさで唇を噛みながら宥める家臣に、小十郎は一層険しい顔をつくる。
「だから、だからだ。この身を全て差し出す覚悟で政宗様をお救いする」
「完全降伏ですか? そんなこと、政宗様は・・・・・・」
「あぁ、きっと望んではいまい。だが、私の全てなのだ・・・・・・政宗様は。この小十郎の身体ひとつで救えるのならば、安い」
 意思は固かった。
 もとより、片倉を止めて連れ戻そうなどとは微塵も思っていなかった家臣ら。
 それぞれの口からちいさな溜息がこぼれる。
「わかりました。お供します。我々は政宗様はもとより、片倉殿も武田になんぞやるつもりはありません」
「お前たち・・・・・・」
 引き止められる。
 そう思っていた彼は、彼らの言葉が意外なものに聞こえたが、気持ちを汲んでくれたことに、感謝すらしたのだった。
「で、その馬、変えましょう。この馬を使ってください」
 追いかけてきた家臣の中で一番若い者が、自分の乗ってきた馬を差し出した。
「片倉殿の馬に比べれば、そこらの野馬同然ですが、疲れきった馬に乗っていくよりはマシではないでしょうか」
 馬を休ませた後、追いかけると言う彼の言葉を拒むが、申し出そのものはあり難く受け入れ、小十郎を含めた4人は政宗がいる武田信玄の元へと、馬を足早に走らせていった。


 武田信玄の城門を荒々しく破り、城内へと押入る。
 警備兵に囲まれながらも、確実に信玄のいる場所へと近づいていることを、直感で感じ取っていた。
 入り込めば入り込む程兵の数が増え、腕もたつ。
 だが、共に来た3人の家臣の疲労は限界に達していた。
 これ以上の無理は無駄に命を失うことになる。
 時間の問題だった。
 血の滴る剣が空気を裂き、歯向かう敵を確実に切り裂く。
 当てて気絶させる、そんな余裕ないし、加減もしてはいられない。
 これも無駄な命の消失。
 そのきっかけは、政宗の勝手な行動によるもので、武田を責めるのもお門違いであるのだが、わかっていても、この先に囚われている政宗のことを想うと、理性の欠片などないも同然だった。
「うっ・・・・・・」
 背後で呻き声がし、肩越しに振り返れば、家臣のひとりが肩を抑え剣を手放し膝をついている。
 その者の真上から勢いよく武田兵士の剣が下ろされようとしていた。
 もう駄目か・・・・・・
 ここで斬られようとしている彼を助ければ、辛うじて保っていられた陣形が崩れることになる。
 だが、捨ててはおけない。
 そう思った直後、記憶に刻むより早く、剣を相手の武田兵士の背中目掛けて投げていた。
 その剣は確実に相手の息の根を止める。
 しかし、その時点で小十郎の思いは断たれたのだった。
 武器はない。
 疲労は限界。
 多勢の武田兵士。
 素手で相手をしたところで、結末を迎えるのが少しだけ延びるだけのこと。
 ここで命を失う訳にはいかない。
「降伏する」
 両手をあげ、歯向かう意思のないことを示す。
「片倉殿・・・・・・」
「だが、そいつらは関係ない。私が無理に連れてきたのだ。捕らえても何の特にもならん。見逃してくれ」
 しかし、そんなことを一兵士が判断できる訳もなく、それぞれ後ろ手に縛り上げられ、喉元に刃を当てられる。
 何十にも兵に囲まれ、砂利の惹き詰められた中庭へと連行されていった。



 頭を上から強く押し付けられ、額に砂利が食い込む。
 息も侭ならず、鼻で息をすれば細かい砂利がそのまま吸い込まれていくほどだった。
「賊を捕らえて参りました」
「ふむ。ご苦労だった」
 威圧的な空気と、貫禄のある声色。
 それが武田信玄その者であると、わかる。
「意外と早かったな、小倅の忠犬・・・・・・片倉小十郎」
 小倅とは、政宗のことをさしている。
「顔をあげよ。一応、そちの大切な者は丁重に預かっておる。おるのだが・・・・・・」
 意味深いところで言葉を切られ、ゆっくりと上げていた顔を途中から一気に正面へと向けた。
 縁側にゆとりのある趣で座っているのは、紛れも泣く武田信玄本人であった。
 そして彼から一歩程度下がったところに秘蔵っ子真田幸村が控えている。
 彼の存在が、政宗を変えたのだ。
 お前さえ現れなければ―――
 何度そう思ったことか。
 さらにその後ろ、同じように後ろ手に縛られ刃を突きつけられている政宗の姿があった。
 その側に武田お抱えの忍者、猿飛佐助がいる。
「政宗・・・・・・・様に、なにを!!」
 傍目の外傷は見受けられないが、拘束されていることが嘆かわしい。
「だから申しただろう、丁重に預かるつもりだったが、あまりの暴れ振りに仕方なく」
 やれやれという感じで溜息を漏らした。
 なんとなく、小十郎には予測がついてしまった。
 強い者には挑まずにはいられない彼の性格。
 真田幸村の存在を知ってからというもの、手合わせをしたく疼いていたことを小十郎は知っていたが、相手に手の内を見せることを良しとしない思いから、直接的な戦意外での対戦を止めていたのは、他ならぬ片倉小十郎本人だった。
 それが裏目にでた。
 全ては自分の判断ミス。
「なかなかいい戦い振りではあったのだ。だが、城内を荒らされては・・・・・・のう。いかに寛大なわしであっても」
 あぁ―――首を取りにきたと勘違いされても仕方がない忍び方をしたのか・・・・・・政宗様は。
 小十郎の身体ひとつで済みそうにない予感がひしひしと過ぎる。
「申し訳ない。全てこの片倉小十郎の不徳の致すところ。できますれば、この片倉小十郎の身にて、政宗様の無罪放免をお願いしたく」
 深く深く頭を垂れる。
 砂利に額を擦りつけ、このまま首を落とされても文句は言えないと、そこまで覚悟をして。
 噂では人情厚い方だと聞く、武田信玄の配慮に委ねる。
 沈黙が、重い沈黙が流れる。
 長いのか、ほんの一瞬だったのか、個々感じ方が様々な空気が漂っていた。
「親方様・・・・・・」
 幸村が信玄に恩情を願う。
「うむ。確かに幸村にとってはよい好敵手のようだ。だが、区別はつけねばならぬ。わかるな、幸村」
 反対に諭され、やや同情にも似た視線が政宗に向けられた。
 政宗にとってはやりきれない思いだ。
 一番心許せる者が全てのプライドを捨てて身を捧げようとしている、自分ではなく武田に。
 決して味方ではない幸村に哀れにも同情される。
 信玄の視線が幸村から政宗へと移り、その様子に何かをひらめく。
「ほう、そうか。そういうことか」
 ひとり何かを納得し、小十郎を見下ろし、ニヤッと笑う。
「お前の命なんぞ、いらん。なんの特にもならん。小倅の命もな。幸村のよい玩具を取り上げる気はない。だが、そのまま返す訳にはいかぬ。土足でこの城内に入り込んだ責任は取ってもらう」
「政宗様を無事返していただけるのでしたら」
「おぉ、返すとも。だが、そなたの奉仕次第だ」
 政宗を玩具呼ばわりする言動も、何か挟まったような言い方をすることにも、苛立ちが沸かなかったわけではなかった。
 ただ、最優先することが政宗の奪還にある。
 無事に奥州に戻れる確証を貰えるまで、異議を唱えるのはよい方法でないと判断したからだけだった。
「武田信玄殿の仰せのままに。政宗様を返して頂けるのでしたら」
 小十郎がこの武田信玄の前で、まともな言葉を話せたのは、これが最後であった。


「んっ・・・・・・っ」
 太く生臭い異物が、喉の奥の奥を突付く。
 鼻につく生臭さが息苦しさと重なって、生理的な涙を流す。
 政宗が何かを騒いでいたが、よく聞き取れない。
 下半身は熱く、特に一点にのみ熱が集中して点火したような感じで、自分の身体ではないように思える。
 股の間を流れ伝わるのは、生暖かい鮮血。
 狭いと呟かれ、幸村の槍で突付かれた名残。
 今は幸村の雄の象徴がしっかりと、槍で広げられた後ろの穴に填まっている。
「ぐっ・・・・・・ふっんっ・・・・・・」
 苦しさと屈辱さから堪える唇の端から吐息にも呻き声にも取れる声がこぼれる。
 それが己の耳に入ると、情けなさと羞恥心が掻き立てられる。
「中々いい舌使いだな、片倉小十郎。その舌で小倅を楽しませておるのか? だったら伊達の小倅が生意気なのも頷ける。こんないい思いを日夜しておれば、謙虚や我慢という言葉を知らぬのも頷けるというものだ、なぁ幸村」
「はっ、親方様・・・・・・。こちらの具合も中々」
「そうかそうか、ではそちらを試してみようなのう」
 ずるりっと太い異物が小十郎の口から引き釣り出される。
 喉の奥、口の中いっぱいに陣取っていたモノがなくなり、漁るように空気を吸い込み息を吐く。
 後ろの穴にも空気が入る。
 ガチガチに填まっていたモノが抜かれ、開放感が心地よい。
 無意識に身体がここから逃れようと足掻くが、両手の自由を奪われており、動かしているつもりでも、その場で暴れているようにしか、周りの者には見えない。
 冷ややかな笑いが響く。
 武田兵士の見守る中、信玄と幸村に犯され姦されている。
 その中に政宗の姿が視界の端に映る。

「政宗・・・・・様・・・・・・」
 このような姿、そのような目で見ないでください。
 小十郎は政宗様さえ無事であれば、このような仕打ち、少しばかりケガをしたようなものです。

 政宗への言い訳か、自分への言い訳か、わからぬ思いが過ぎる。
 政宗を無事奥州へ帰す代わりに、武田は片倉の身体を要求した。
 如何なる仕打ちにも耐え従う覚悟はあった。
 奴隷なみの労働か、暴力的な仕打ちか―――
 まさか、このような事を望まれるとは、思いもしなかった。
 ある意味、暴力的ではあったが―――
 気持ちいいとは到底思えない、これ以上の屈辱はない。
 しかし、次第に慣らされていく身体の変化に戸惑う小十郎は、無意識に何か言い訳を探していたのかもしれないと、帰路の途中に思い返すのだった。

「おい、佐助」
「なんでしょう、だんな・・・・・・」
「おまえも突っ込め」
「って言われても、どこに?」
 そんなやり取りの最中、先ほどの圧迫感など問題なならない程の異物が後ろの穴に填まっていく。
「ぐっ・・・あぁ・・・」
「狭いのう。だがヒダが絡みついて、中々いい具合だぞ」
 信玄の満足そうな声が背後から投げかけられる。
「もっといい声で鳴いてみせよ」
 グッグッと腰が入ってくる。
「いっんっ・・・・・・」
「耐えるな、感じるままに流されよ」
「ひっ・・・・・いっ・・・あぁ・・・・・・」
「って感じで旦那、これじゃ無理ってもんでしょ?」
 信玄の楽しみを奪う根性はないと、佐助は二人の様子を顎で指す。
「・・・・・・では、親方様が楽しんだ後に、佐助・・・・・・」
「ふたりで片倉を・・・ですか? っていうか、俺としては女の方が好みなんですけどねぇ」
 暫し信玄に翻弄される小十郎を見た後、
「とはいっても、あんな腰つき見せられちゃ、そこらの女より味見してみたい」
「そうだろ、佐助」
 同意を得られ、舌舐めずりをする幸村。
 かすかに聞き取れる二人の会話に、この時間がまだ続くことを知る。
「おい、来るなら、とっとと来い。ちんたら順番待ちしてんじゃねぇ」
「ほう、まだそんな口を聞けるとは。大したスキモノよのう、お主」
 信玄の腰の動きが早まる。
「ぐっはぁ・・・・・・・んっ、ンッンンンン・・・・・・っ」
「幸村。佐助。要望だ、口の中突っ込んでやれ。それにココ、もう一本くらい入るだろう」
 背後から小十郎を抱きかかえ、股を広げ繋がっている個所を見せつけた。
「親方様・・・・・・・」
 ゴクッと生唾を飲む幸村。
「来い、幸村!」
「はい、親方様! これで親方様とも一緒に満喫できます」
「おうよ、幸村。共に味わおうではないか、片倉小十郎を!!」
 信玄の指が穴を更に広げる側から、幸村のモノがねじり込まれる。
「・・・・・・!!」
 言葉にもならない、呻き声も発せられない程の苦痛が小十郎を襲う。
 そのまま生きたまま身体を真っ二つに裂かれるかのような感覚。
 呼吸もままならない彼の口を、佐助の雄が塞ぐ。
 くぐもった吐息が中庭に響く。

 信玄が果て、幸村と佐助が果てるまで、この遊戯が続いた。
 ふたりが解放され、武田の城の外に投げ捨てられたのは、小十郎が乱入してきてから実に丸二日は経っていた。





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