Carrot Shief
利家×小十郎
朝靄の中、裸体に近い男がひとり。
黙々と何かを引っこ抜いているのを目撃した片倉小十郎は、この三日三晩、寝ずの見張りをした甲斐があったと、息荒々しく飛び掛った。
「観念しろ、この野菜泥棒!!」
――が、相手が上手だったのか、自分の体力が限界だったのか、飛び掛り捕らえた筈の泥棒は小十郎の腕をすり抜け、背後に。
そのままねじ伏せられてしまった。
「ちくしょう。俺もヤキが回ったぜ」
締め上げられる力の苦痛より、この三日の努力と、丹念に育てた野菜を盗まれ続けた日々の悔しさの方が増す。
腕一本くらい、くれてやる!
そんな意気込みで、無理な体勢から反旗を翻した。
だが、そう簡単に上手く事が進むはずもなく、どこから手にしたのか、手早く縛りあげられてしまったのだった。
そのまま畑から引き摺られ、一番近い木の幹に身体を括られる。
こうされている間に靄が晴れ、泥棒の素顔が明らかに。
その素顔に、小十郎は困惑をした。
★★★★★
「てめぇ……Happyな夫婦の片割れじゃねぇか。確か――前田利家。どういうことだ? 説明、聞かせろや」
少し凄みを入れた言葉だが、傍目縛られている小十郎の方が分が悪い。
凄みも睨みもまったく効果を発揮していなかった。
いつだったか、ちょうど野菜の収穫時期。
どこで聞きつけてきたのか、野菜名人と噂されていた小十郎を訪ね、この夫婦がやってきたのだった。
その時は、互いの利害が一致し少しばかりだが野菜を分けてやった。
互いに気持ちよく分かり合えた筈だと思っていたのは、小十郎だけだったのか――
「あんたが、悪いんだ――」
少しイジケたような、ふて腐れたような口調で利家が言う。
「はぁ? 意味がわからねぇな」
「なんで、この世に人参なんてものが存在するんだ……」
そういえば、人参が嫌いだと言っていたような……
微かに残る記憶を蘇らせる。
あの時、奥方が美味しく料理してやると宥め、政宗が小十郎の作った人参が食えねぇとは……とか言い出し、ひと騒動。
あれから、夫婦仲良く手を繋いで帰っていき、円満になっていた筈ではなかったのか?
頼むから、夫婦喧嘩をこちらまで持ち込んでこないで欲しい――それが正直な心境だったが、縛られ身動き出来ない状態で、あまり相手を刺激するのは得策ではない。
「おい。嫌いな人参盗んでいったって、おまえには意味がないだろう?」
「そんなことはない。この世に存在する人参全てを抹殺しながら……」
「あんた――嘘を言っちゃあ、いけねぇな。この畑から無くなった野菜は人参だけじゃねぇ。俺の好物、牛蒡もなくなっている。他もろもろ、ちょうどそろそろ収穫になると、楽しみにしていた野菜全てだ。どういう了見だ?」
更に追求が厳しくなり、利家の顔が変わっていく。
ふて腐れた顔から次第に憎悪にも取れる表情。
「だって、まつが――」
まつ――とは、利家の奥方の名。
なぜ、ここで奥方の名が出てくるのか、小十郎にはさっぱりわからない。
「まつが、牛蒡好きのって、あんたの事を思い出したように口にする……」
利家のこういう感情をなんというか、妻はもとより愛しい者がいたためしのない小十郎には理解出来ない。
「なんだ、そんなに俺の作った野菜を気に入ってくれていたのか――」
などと、とても前向きかつ自分に都合がいいように解釈をしてしまった。
それが、片倉小十郎悪夢の始まりとなるとも知らずに。
「なんだ、やはりひっそりと繋がっていたのか。食卓にありとあらゆる人参料理が並ぶのも、みんなおまえの差し金か――片倉小十郎」
見に覚えのない言いがかりが小十郎の気分を逆なでする。
「てめぇ、こっちがおとなしくしていりゃ、意味わかんねぇことほざきやがって……いい加減にしろ。本気で殺し合いするっていうなら、対等であるのが礼儀っていうもんじゃねぇか?」
「殺し合い? そんな――ただ、殺しただけじゃ、某の苛立ちは治まらん!」
★★★★★
「てめぇ……!」
小十郎の凄んだ声が低く響く。
しかし、身体は縛られ固定、衣服は切り刻まれ、とても言動の迫力に説得力がない。
両脚は左右、肩幅よりも広く開かされ、これも動かぬように固定。
股間は丸見え、更によく見えるようにと、毛を全て剃られてしまっていた。
利家に全てを全開にして見せている姿は、違った意味でかなり小十郎を追い込んでいた。
「こんなことをして。変態か?」
拷問、それに近いものはあるものの、感じる感覚が違う。
「違う。決して某は変態ではない。ただ、人参を作った罪を身体で知って欲しいだけだ」
それでどうしてこんな羞恥に似たことをするのかが、また小十郎にはわからない。
更に理解に苦しむのは、人参を手に乾いた笑みを浮かべた、利家の行動だった。
泥がまだ残り、細かなヒゲが付いている人参。
太さはそれなりに、葉の方に向かうにつれ太さが増す。
その太い方を手に持ち、細い方を小十郎の秘所にあてがった。
「何をする気だ?」
「入れる。まずは、下の口から食べてもらう」
利家の顔は真顔。
とても冗談とは思えない。
小十郎の脳内でいくつもの傾向が組み立てられるが、まさかと思っていた行動に利家が動く。
あてがった人参をそのまま小十郎の体内へと埋め込んでいった。
狭い入り口を強引にこじ開けて侵入していく。
異物が入り込む違和感より、細かい砂利、泥やヒゲの感触の方が気持ち悪い。
秘所から体内へ……
違う意味で汚されていくよう。
「おお、まさに人参がお主のいやらしい箇所から生えているようだ」
利家の言葉に、小十郎の視線が股間へと動く。
股の間から生えて見える、人参の葉。
まさしく体内に育っているよう。
「変態やろう……!」
小十郎の言葉が、利家を愚弄する。
しかし――
「なんとでも言え。お主のその姿を他の者の目に晒されてもいいのならば、な」
「貴様――!」
利家が何を考えているか、ここまでされれば察しがつく。
どこかに吊るして晒し者にでもするつもりなのだろう。
「野菜作り名人はこうやって、己の体内でも栽培している――違った意味で、客が取れるんじゃないか?」
小十郎を蔑み、更に人参を奥深くへと差し込む。
「ぐっ……」
小十郎の口から、苦痛にも似た吐息が漏れだす。
「やっと、声を出したな。こんなことをされて、感じているお主の方が変態だ」
利家が負けずに小十郎を罵る。
更に羞恥を煽るように、人参を抜き差しする。
体内を行ったり来たり動く人参は、小十郎の意思とは関係なくしっとりと中を湿らせていく。
「ちくしょう……くっ、んっ……」
悔しがっても、口元が緩めば意思など関係なく吐息が漏れる。
「ひっ、あっ――…!!」
抉るように動かされると、身体ごと大きく反応してしまう。
声は大きく荒げてしまい、響いて戻ってくる自分の声に羞恥心が加速する。
逃れようと身体を捩れば、また違った角度で感度が増す。
「動けばそれだけ縛りがきつくなる」
開いたまま固定された両脚の足首。
縛った縄から血が滲み、利家は舌舐めずりしながら、ほくそえむ。
「そして皮が剥け血が滲み……いずれ肉を裂く。そういう縛り方をした」
血管を圧迫しているのか、既に感覚が乏しい。
このまま血液が足りなくなれば腐って落ちてしまう。
抵抗はやめても、人参の動きに身体が激しく反応、悶えてしまっているのだ、もう止まらない。
「やめてくれ――」
はじめて小十郎の口から、懇願の言葉が出たのは、こういう状態に陥ってから随分と時間が経過してからだった。
足首より下は、既に人の肌の色をしていない。
「人参は作らないと、誓え」
「――無理だ。だが、あんたが他のことで納得が出来ることは、しよう。約束する」
「ならば、まつと口を利くな。会うな」
「それなら、お安い御用だ。ついでに、奥方にも同じ事を言えばいい」
「まつにか? まつに、おまえにしたことと同じようなことをして……まつの中に人参を入れて――ブッ……!」
何を想像したのか、激しく鼻血を吹きだし、そのまま疾風のように立ち去って言ってしまった。
露な姿で取り残された小十郎――
夜半過ぎ、意外な野菜泥棒の出現により、身体を括られていた木がへし折られ、やっと破廉恥極まりない姿から解放された。
「あいつ、本当に人参だけだったのか――」
人参意外を荒らしていた猪の出現は、小十郎にとってなんとも言えない登場であった。
完結