御降り

幸村×小十郎



 正月三が日。
 珍しく晴れ渡った空の下を、小十郎は快調に馬を走らせていた。
 とても、天気が崩れるなど、そんな気配はない。
 澄み切った青空に、眩しい太陽。
 太陽の日差しが、積もった雪に反射して、眩しさを増していた。
 逆光となる前方に、待ち人が佇んでいるのがわかる。
 かなり特徴のあるいでたち。
 確かにあんな姿で往来されては、通報のひとつ来たっておかしくはない。


「待たせたな、真田幸村」
「まったくだ、片倉小十郎殿。この幸村、政宗殿との一騎討ちに、胸踊る気分であったぞ。早速一試合といいたいところだが、その政宗殿はいかがした」

 小十郎が政宗より聞かされたのは、つい先ほど。
 城下町に怪しい風情の男が――そんな通報とほぼ同時であった。
 いつどこで、そんな約束をしたのか、まったく抜け目の無い政宗に対し、小言のひとつやふたつ言ってやりたかったが、相手はあの甲斐の虎を継ぐ者とされている真田幸村。
 若き虎の異名を持つ男。
 その男をいつまでも待たせていたのでは、伊達の名が廃るというもの。
 武田に対し、無礼にもあたる。
 小言は溜息で流し、小十郎はその足で迎えに出たのだった。


「政宗様は、公務中だ。俺もさっき知ったばかりで、な。客間の用意ができていない。済まないが、そこの茶屋で待ってはくれないか?」
「ひとりで?」
「ああ――そうだな。俺でよければ相手をしようか」
「おお、忝い。なんと、竜の右目が直々に相手をしてくれるとは――」
 やや不機嫌気味であった幸村の顔が、菓子を与えられ喜ぶ子のように晴々としていく。
 ひとつ肩の荷がおりたような気分に、小十郎は安堵の溜息をついた。
 ――が、次第に雲行きが怪しくなっていたことには、気付いていなかった。


 ◆◆◆

 天候の悪化に気付いたのは、眼(まなこ)でしかと雨が確認できてからのこと。
 茶屋の店前、椅子に腰掛け注文した茶と団子が運ばれてきた時だった。
 店主は身なりから小十郎がそれなりの身分と判断。
 休憩所程度の空き部屋ですが――と、ひと部屋提供をしてくれた。
 断る理由はない。
 むしろ、助かったというもの。
 ふすまで仕切られた畳6畳程の部屋の中、小十郎と幸村は向き合い、入れなおしてもらった茶をすする。
 渋い趣の小十郎に対し、幸村は天真爛漫といった感じ。
 茶の渋さに顔を歪めたかと思えば、甘い団子に笑みがこぼれる。
 その豊かさある表情に、しかめっ面小十郎の顔が緩やかになっていった。

「な、何がおかしい?」
 穏やかな表情など滅多に見せない小十郎。
 その表情が、幸村にとっては笑われているように感じ、少し照れくさそうな顔とムッとしたような顔が入り混じった複雑な顔をして、口先を尖らせる。
「いや、失敬。笑ったのではない。ただ、似ている――と、思ったのだ」
「似ている? 誰に?」
 聞くまでもないが、やりとりの流れでそうなる。
「政宗様に――似ているが故、惹かれあうのかもしれないな。お互い」
 どういう意味で似ていると言っているのだろうか、この男は――幸村の中に闘志みたいな感情が湧き上がる。
 政宗を敵対しているわけでもない。
 ただ純粋に、力の限り正々堂々と戦い勝ちたい、ただそれだけの感情。
 それだけを取り上げれば、確かに似ているのかもしれないが――
「似てなどいない。まだ足元にも及ばない」
「ん?」
「お館様が仰っていた。好敵手となりうる相手と出会えたのは良き事。しかし、幸村と政宗殿とでは背負っている重さが違う――と。対等でない故、勝ち負けにはならぬ――と」
「なんだ、しっかり立場ってものをわかっていんじゃないか。だが、あんたと向かい合っている時の政宗様は、ただの伊達政宗。それ以上でも以下でもない。対等だと思うが?」
「それでも、命をかける重さと場所は違う」
「あんただって、お館様の上洛が夢。成し遂げるまで果てる訳にはいかないのだろう? 人はそれぞれ見合った枷とか背負う重みがある。いいんじゃないか、真田幸村の背負ったものは、武田信玄と共にあるっていうので。ま、俺が政宗様に対しそういう気持ちだから、あんたの気持ちもわからないでもない」
 思いもよらぬ小十郎の言葉に、幸村は目を見開く。
 従者としての迷い、それをこうも簡単に割り切っている。
 そしてひとりの人として、しっかりと地に足がついて――こんな従者を従えている政宗に勝てる筈などないのだ。

「どこに行く?」
 まだ外の雨は止んではいない。
 食べ残しの団子を皿に置き、幸村が立ち上がると、小十郎は反射的に彼の腕を掴み行く手を阻む。
「帰る。政宗殿には、急用とでも言っておいてくれ」
「おいおい、それはないだろう? 政宗様は、今日の日を楽しみにしておられた。ひと時でいい、相手をしてやってくれ」
「だが、この幸村。今の話を聞き、政宗殿と向かい合う立場にはござらんと判断する。精進が足りん。しばし、時をくれぬか?」
「――それは、構わん。ただ、なぜ引きとめなかったのだと、この俺が問い詰められ罵られるだけのこと。だが、あんただって何もなしに戻ったところで、聞かれて返答に困るだけじゃないのか? 聞かれるだろ? 甲斐の虎に。どうであった……と」
「それは、そうだが――」
「せっかく、お館様公認の一騎打ちなのだから、気にするな。この小十郎が相手をすると、言っただろう? 茶飲み相手、話し相手では時間が持たないというのならば、それ以上のことでも――」
 引き止める為に伸ばした腕は、そこから幸村の腰へと回す。
 抱きしめ、縋る体勢になると、口元付近に幸村の股間があたる。
「か、片倉殿?」
「いいぜ……こっちの相手でも。あんたはどっちだ?」
「は、破廉恥でござる――こんな昼間っから」
「情事に昼も夜もないだろ? あんたのところは違うのか?」
「――ち、違わない。だが、しかし――」
「だったら、気にするな。この片倉小十郎を味わえるなんざ、滅多にない。そう思うだろ?」
 幸村の返事を待つまでなかった。
 口元に当たる股間のモノ。
 それはただ触れただけで硬さを増し、滑り込むように小十郎の口の中へと入って言った。
 頬を赤らめ照れくさそうに笑みを浮かべる幸村。
 このままいける、小十郎は確信のもと、その先を続けるのだった。


 ◆◆◆
 
「なに?」
 幸村は突然声を上げた。
 流れからして、絶対に感じるはずのものではない感覚が身体を支配している。
 なぜ?
 視線で小十郎に問いかけるが、彼は彼で奮闘中なのか幸村と目を合わせない。
「間抜けな顔をしているなよ。それとも、俺の身体はお気に召さないか?」
 ひとつのことをなし終えた達成感、顔から滲み出る笑みを惜しげもなく見せ、小十郎がゆっくりと腰を動かす。
 次の行動に移りながらの会話。
 幸村は、この状況にまだついていけていない。
 自分のモノが締め付けられ、擦られる感覚。
 小十郎が幸村の身体を貫いたのではない。
 幸村の勃起したモノを、小十郎が飲み込んだのだ……下の口で。
 その下の口を上下に動かすのには、腰を使い上下に身体を揺らすしかない。
 身体を落す時に体内を開く感じに、浮き上がる時に絞め付けて幸村のモノも一緒に持ち上げる感じで動く。
「くっ……片倉殿――」
 幸村の口元から甘い息が吐き出される。
「んっ、いいぜ、幸村。なかなか、俺たちは相性がいいらしい」
 仄かに顔を紅色に染め、小十郎が呟く。
「そういう片倉殿も、意外な一面をお持ちだ――こんなにも満たされていく感覚は初めてで……」
 次第に慣れていく状況。
 それにつられ対応していく身体。
 幸村は自分の意思で、片倉小十郎の身体を欲し始めた。
 ゆっくり動く小十郎の腰をしっかりと支え、自ら激しく腰を動かす。
「はっ、あぁ……いきなり?」
「違う。こう仕向けたのは片倉殿――」
「そうだとしても、激しい。俺の身体が……」
「持たせられよ、片倉殿。この幸村の相手をしているのだから」
 そう、客人を持て成しているのだ、先にイク訳にはいかない。
 貫き解放されそうになる感覚を必死に止め、まだ楽しめるとゆとりをみせる。
 しかし幸村の性格がそのまま現れるような貫き。
 急く感じが、小十郎の思いを簡単に砕いていく。
 股間のモノから白い液体がこぼれだす。
 それはもう限界だと、身体が発している信号。
 しかしそれを幸村の手が覆い隠す。
「まだ、まだこれから……」
「冗談だろ、おい……」
 覆い隠した手に握られたソレは、千切れそうな痛みに変わっていく。
「この幸村、冗談は言わぬ」
 真剣な顔つき、そのまま小十郎を背中から寝かせ、幸村自身優位な体位へと変える。
 激しい動き、深く奥まで刺さるモノ。
 体内を無心に暴れる、そんな感じで責め立てられ、正気でいられる筈がない。
 ほんの少し、幸村の手の力が抜けた隙に、小十郎は大胆に果てていった……


 ◆◆◆
 
 雨が上がったのは、それから暫くしてからのこと。
 あの後、持て成す相手の幸村を置いてさっさと達してしまった小十郎は、手と口とで一回幸村のを抜き、そしてまたひとつに繋がる。
 次は互いの気持ちが重なっているかのように、同時に達することが出来た。
 晴々とした幸村の表情とは裏腹に、小十郎は疲労困憊顔。
 幸村との行為の激しさを物語っていた。
 当の幸村は、少し溜まっていたのか、激しさも若さで補い晴々とした――と、いうところだろう。
 戻りの遅い小十郎を心配し、迎えに参じた家臣は不思議そうな顔でふたりを見比べていたのだった。



 完結

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