面従後言

幸村×小十郎


 賭け――を、した。
 その事を悔やんではいない。
 だって、そうだろう?
 伊達を知る、いい機会だ。
 こんなチャンス、滅多にない。

 伊達政宗との一騎撃ちに負けた真田幸村は、1ヵ月という期間限定で伊達の配下につくことになった。
 口約束とは言え、武田信玄を慕い敬っていた幸村にとっては、これ以上の屈辱はないのだが、至って平然と受け入れた彼の姿を見ていた佐助はこの時思った。
 絶対、ひと波乱ある。
 単なる傍観者でいられるなら、これ以上の楽しみって、ないと思うよ――
 去り際、片倉小十郎に耳打ちをした。
 それから半月。
 佐助の予言が的中。
 小十郎は双方から迫られ窮地に陥ってしまったのだった。


 ◇◇◇

「目付け役を頼んだのは、おまえだ、小十郎。さっさと真田幸村を見つけて来い」
 あれこれと下僕扱いをしていた政宗は、突然姿を消した幸村に対し、苛立ちを向ける。
 それ以上に、幸村の目付けという面目で見晴らせていた小十郎の失態に怒りが隠せない。
 約束を破る気か?
 真田幸村ともあろう者が……
 もっともな苛立ちに、さすがの小十郎も政宗を宥め切れない。
 もし、身勝手に動き回られ、あらぬことを見聞きしそれを武田信玄に密告でもされたら――困る事はないが、あることないことを口にされる可能性もある。
 傍から見ていて思った――政宗様の幸村に対する執着心は異常だと……
 思惑はなんにしろ、向けられた方としては耐え兼ねない事もあるだろう。
 それを幸村が感じていたなら、奥州を出られてしまう前に捕まえなくてはならない。
「御意!」
 小十郎はそう答えるのだけが精一杯だった。


 ◇◇◇

「伊達政宗はご立腹か?」
「当然だろう、真田幸村。俺とて、庇えるのには限界がある。明日にでも、自身の意思で戻って来たと言った方がいい」
「だが、某の気が治まらん。冗談ではない。確かに負けたら政宗の部下になって働こうとは、言った。言ったが……あれではまるで」
「奴隷……」
「そう、奴隷だ。お館様にだって、したことは、ない」
 そうだろう――この小十郎とて、政宗様に対ししたことはない。
 幸村の愚痴に、小十郎は同情同意する。
 見ているのも忍びないほど、口にして説明はとてもし難い行為を散々要求されていた。
「確かに、政宗様の悪ふざけは行き過ぎている。あの方がそういう方であることは、あんただって知っていただろう? ま、生真面目過ぎるあんたには、酷だったな」
「なんと……! 小十郎殿はやり過ごせていると?」
「いや、違うな。その後、俺の仕返しを懸念しているのだろう」
「ああ、小十郎殿の小言は凄まじいと聞いた」
「ふっ……愚痴を零していたか……」
「だが、しかし。某の気は治まらん。このイラッとしている気持ち、どこぞかで晴らさなければ、気が治まらん」

 奥州から甲斐へ、無断で逃げるつもりはなかった。
 それ故、間に入り取り持ってくれそうな小十郎の部屋へと逃げ込んだ幸村だったが、こうして話をしていればするほど、苛立ちは募るばかり。
 どこかで発散しなくては……
 どこかで――
 そのどこかでという気持ちは次第に小十郎へと向けられていく。
「思うに、小十郎殿。貴殿をもしめちゃめちゃにしたら、政宗殿は悔しがるか? 少しは凹ませることに繋がるか?」
 問われた小十郎は、その意味を理解出来ない。
 ただ言える事は、信頼されているということ。
 それからどう政宗が感じるかは、小十郎自身予想出来ない。
 ならば、やってみる価値はある。
 そう呟いた幸村は、力任せに小十郎を畳の上に押し倒したのだった。

「はけ口になってくれ――」

 不平不満の愚痴を聞く事は出来る。
 それで気が治まるなら、言いたいだけ言わせて聞いてやることは、出来る。
 だが、この体勢はなんだ?
 小十郎の表情が強張り、力で押し返そうとする。
 すると、咽喉に小刀を突きつけられ……
「大人しく、某に身体を委ねられよ。悪いようにはしない」
「てめぇ、ふざけるな!! こんな体勢のどこが悪いようにしないと? だったら、その刃物、どけろや」
「出来ぬ。とても某に従うような目をしていない。屈する気のない目だ」
「当たり前だろうが。庇ってやった恩を、こんな形で返す野郎だったとは、とんだ見込み違いだぜ。俺に手を出してみろ。代わりにてめぇのあの忍をめちゃめちゃにしてやる」
「佐助を? 構わん。やれるのなら、やってみせよ。佐助はそこらの忍とは、違う」
 幸村が佐助を買被っているわけではないことを、小十郎も知っている。
 やる時はやる男だし、きっと……主人の失態、尻拭いを甘んじて受け入れる男だろう。
 では、自分もそうでなければいけないのだろうか。
 政宗の幸村に対する扱いは、少々行き過ぎていた。
 止めることも出来ず……ただ、時が過ぎてくれることを願っていた。
「おまえ、俺を手篭めにしたら気が済むのか?」
 それに幸村は答えない。
 答えない代わりに、唇が重なり、股間に手が触れる。
 モノを握られ、股を広げられ……殆ど解すことなく、幸村のモノが突き刺さった。

「ぐっ、ふっ……」
 口を唇で塞がれながらも、痛みに耐えかねた呻き声が漏れる。
 幸村が塞いでくれなければ、辺りに響いていただろう。
 感謝はしたくないが、助かったとは思う。
 突き刺したモノはそのまま前後に擦りつけながら動く。
 慣らす気はないらしい。
 乾いた体内に擦られ、痛い以外の感覚はない。
 次第に濡れているように感じるのは、錯覚か切れた箇所から滲む血のせい。
 それでも、濡れていると感じられるだけマシというもの。
 思い込みは次第に本当に濡らしてくれるからだ。
「早いな、濡れるのが。こうされること、望んでいた?」
 濡れると滑りがよくなる。
 幸村の腰の動きが早く、そして奥深くまで入り込む。
 それは次第に痛みから快楽へと変わっていく初期段階。
 奥深くに当たる、幸村のナニが小十郎の気持ちを高ぶらせていく。
 呻き声は甘い吐息に変わり、塞がれた口が解放されると、艶やかな喘ぎ声で幸村の動きに答えた。

「はっ、あ……んっ……」
「小十郎殿は、とても破廉恥に身体をしている。何人の男に手篭めにされた? 政宗以外にも、身体を委ねた男がいよう? まさか、うちの佐助とも?」
 小十郎は答えない。
 答えられないのだ。
 政宗以外に身体を委ねたことがあるのも、事実。
 また、佐助ともなかったわけじゃない。
「力で捻じ伏せられてするのが、好みだったとは……こんな破廉恥極まりない身体ははじめて。もっと、幸村を楽しませてくれ」
 開いていた脚が幸村の腰に絡まる。
 深く填ったまま、幸村の腰が動き、限られた範囲しか刺激がないが、それでも小十郎にとっては快感であった。
 幸村が言うように、痛みから快楽に代わる、その瞬間が堪らない快楽である。
 なんとなじられ様が、忘れることが出来ない。
 幸村とこうなるとこを望んで、見てみぬふりをし、彼を追い込んだ。
 そう推測されても、異論はない。
「楽しませて欲しかったら、あんたが先に俺を楽しませてみせろ」
 小十郎が強気に強請る。
 強気に出たところで、もう幸村はこちらの手に落ちたようなもの。
「また、やらせてくれるなら」
「いいぜ。俺を楽しませられるよう、襲って来いよ」
 煽る言葉に、幸村の闘志がわく。
 政宗に詰られた後、その鬱憤を小十郎で晴らす。
 この連鎖が約束の1ヵ月まで、続いたのであった。


 ◇◆完結◆◇

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