それが運命だったとしても

  幸村×小太郎  



 お館様と、いつも武田信玄の後についていた真田幸村の姿をみかけなくなったのは、数週間前。
 突如と姿を消した幸村の存在に、信玄は思い当たることでもあったのか、好きにさせておけと、家臣等の進言を下げ、他言無用と念を押した。
 別途、信玄の忍数人に、こっそりと幸村の後を追わせる。
 何もするな、手だし口出しをするな。
 黙って成り行きを見守れ、全てを報告せよと指令を出して……


◆◆◆

 一方、真田幸村は、道なき道を突き進んでいた。
 風の便りに聞く、あの者が通った、見かけたという言葉を信じ、確実に突き止めるには同じ道を進むしかないと、考えたのだった。
 しかし、いくら武人として日々鍛えていたとはいえ、やはり尋常ならぬ力を持つ者のとの力の差、体力の差は歴然。
 彼が半日で動いた距離、幸村では1日は軽くかかってしまう。
 早く、早く――その焦る気持ちが先行し、自分の失われていく体力に気づくことができないでいた。
 そんな幸村の前に、彼が会って確かめたかった人物その者が降り立ったのだった。


「貴殿が、伝説の忍。風魔一族――」
 確かめるよう、一句一句噛みしめながら言葉にする。
 だが、風魔と呼ばれた男は、幸村を視界の端で見ただけで立ち去ろうとする。
 それを幸村は精一杯身体を動かし、その身体全体で引きとめる。
 足もとに縋りつく、そんな体制だが、微塵も恥ずかしいとか惨めだとかいう思いはなかった。
 ただ、信頼していたあの者の最後を見たであろう、この男の口から真実を聞きたい一心でのこと。
 その行為を風魔は払い除けようとする。
 当然だろう。
 行く手を阻まれ、身体を抑えつけようとしているのだから。
 しかし幸村も簡単には諦めない。
 手足に力が入らないのであれば、重心をかけ抑え込むまで。
 そんなやり取りが繰り返され、結果、幸村の意地と根性が勝った。

「――佐助。そなたが持たせてくれていた薬が役立つとは……」
 取っ組み合いの最中、ふと幸村の視界の中に飛び込んできた小袋。
 その小袋を考えるよりも早く手にし、風魔の顔、特に鼻と口元にふりかけた。
 粉が舞い、次第に風魔の力が衰えていく。
 佐助がいざという時にでも――と、幸村に手渡していた痺れ薬の粉であった。
「こんな時にまで、佐助に助けられようとは……真田幸村、未だ精進が足らんということか……佐助」
 だが、もうその問いに返ってくる言葉はない。
 返す者がもういないのだから――


◆◆◆

「どうだ、どうにもならぬであろう? 忍の中でも佐助の作った痺れ薬は天下逸品。そうそう身体の自由は戻らない。答えられよ、風魔小太郎とやら。佐助に止めを刺したのは誰か? 竹中半兵衛抹殺報告の際、たまたま居合わせた忍と共同戦線にて豊臣秀吉を討つと報告が加えられてから連絡が途絶えた。他の者より秀吉暗殺の吉報を聞いた。それを成しえたのは、どこぞかの忍という噂。佐助か上杉謙信のところの忍か……だが、そのふたりは帰還してはおらぬ。となれば、貴殿しかおらぬ。貴殿が見たことを教えてくれ。忍が運命(さだめ)いかなる結果であろうと、受け入れる覚悟」
 切実に訴え縋る瞳で、小太郎を見下ろす。
 だが、小太郎は答えない。
 痺れて答えられないのではない。
 答えるつもりがない――のだ。
 その雰囲気、意志の固さ……忍であれば当然わからなくもない。
 しかし、佐助の最後を語るくらい、それくらいの気心があってもいいようなもの。
「どうあっても、話さぬ……そうなのだな?」
 頑なな小太郎の気配から、幸村が悟る。
「そうか、では仕方がない。話したくなるよう仕向けるまでのこと」
 二本の槍を小太郎の首側に突き刺す。
 少しでも頭を動かそうものなら、鋭い刃に皮膚はおろか血管までもプッツリと切れる角度。
 自由の利かない身体、そのせいもあったのだろう。
 小太郎はただ地面に横たわる肉体と化した。
 その先になにがあるのか。
 闇に紛れて生きる存在であるなら、なんとなく理解できる。
 しかし、それに対する耐え方も心得ている。
 なんとかなる、あとはこの痺れさえなくなれば、たかが武将のひとり、どうとでもなる。
 そう判断していた。

 ところが……
 そう上手く事は進まない。
 拷問を覚悟した小太郎の身体、しかし感じたのは痛みではなく、圧迫感。
 そして違和感。
 痺れているせいもあってか、普通なら感じる痛みが麻痺していた。
 それを心得ての行為なのか、幸村は小太郎の衣服を破き、露出した下半身を持ち上げ、そこから見えた秘所の中に自分のモノを貫く。
 狭く滑りの悪い、小太郎の体内を遠慮なく抉り、奥深くに沈めていく。

「こういう破廉恥な行為は初めてか? 誰かに見られるかもしれない羞恥に晒されるのは初めてか? 口を割れば、直ぐにも抜いてやる。だから、頼む――話してくれ」
 こんな破廉恥な行為と自ら口にするように、幸村自身、こんなことをこんな野外でするつもりはなかった。
 拷問には耐えられるよう仕込まれている、そう佐助が言っていた言葉を思い出す。
 そんなに時間はかけられない。
 ならば、人は羞恥と恐怖には弱いもの。
 拷問に対する恐怖がないのであれば、羞恥で責めるしかない。
 幸村の思いつく羞恥は、これしか思いつかなかった。

 自ら小太郎を犯しておいて、なぜかとても羞恥に捉われているのは幸村自身。
 犯されている小太郎は、最初異様な顔つきを見せたものの、自分がどういう状態にあるのかを悟るとまた平然とした顔つきへと戻ってしまった。
 とても、恥ずかしくて許して欲しいと感じているようには見えない。
「経験あり……か。だが、流れ出ている血が、違うと言っている。狭い体内、はじめてなのだろう?」
 幾度となく抜き差ししている最中に切れてしまったのだろう。
 一滴二滴と血が滴る。
 無理やりねじ込んだ事も手伝い、無残にも切れてしまった秘所入口。
 その個所は幸村が動く度に裂け目が広がっていく。

「……ッ!!」
 呻き声にも似た吐息が途切れ途切れに漏れ出し始めたのは、キツイ対内が次第に滑らかに幸村のモノを受け入れるようになってからだった。
「犯されて、感じている? 貴殿は、辱められても快感なのか? 忍とは、なんて破廉恥な身体をしているのだ。どうしたら、佐助の最後を知ることができる?」
「ッ……」
 小太郎は言葉を話そうとしない。
「貴殿、もしかして……口がきけないのか?」
 言葉を知らないのかもしれない――そう思いながらも、ではどうやって任務をこなせるのかという疑問が浮かび上がる。
 意図として話さない――それが正解だろう。
 幸村が何をしても、この男は語らない、話さない。
 次第に確信に感じてくると、この行為が空しいだけに感じてくる。
 しかし、感情と身体は違う。
 それは小太郎も同じなのだろう。
 顔は平然としながらも、身体は幸村のモノをおいしく飲み込み味わっている。
 熱い吐息が止め処なく溢れ、口元から唾液がしまりなくこぼれる。
 キュッと中を締め付け、そろそろ限界だと無意識に教えている。


 幸村の行き場のない感情は満たされることなく、あてもなく彷徨う。
 果てた小太郎の身体を見下ろし、背後から彼に襲われるかもしれないという危機感を持ちながらも、この場にいる意味がない幸村は足早に走り去っていく。
 その姿を虚ろな視線でただ見るしかできない小太郎は、未だ抜けない痺れに唇を噛み切った。
 


 完結

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