刹那にも
佐助×小十郎
☆ ☆ ☆
抱かせてよ―――
佐助の言葉が何度も記憶の中で木霊する。
好き好んで年端も行かぬ小童を小姓に抱え込む物好きもいるご時世、人の趣味をとやかく言うつもりはないが、大の大人な、しかも平均よりひと回りもふた回りもある男同士が、赤い布団の中で肌を合わせ吐息を弾ませる。
落ち着いて考えれば尋常でない気がしてならない。
こんな傷のある、筋肉で硬い身体を抱いて何がいいのか、小十郎には理解出来ずにいた。
だが、それでも拒むという行為には出られないでいた。
「男が好きなのか?」
身体のいたるところを愛撫しはじめた佐助に、問い訪ねてみる。
「別に。男色って訳じゃない。どちらかというと、女の方が好きかな。滑らかできめ細かい肌しているんだぜ・・・・・・女の人ってさ。女の経験もないんだろ、あんた」
「それがどうした。女など抱かずとも、生きていくのに支障はない」
「それはそうだけどさ・・・・・・安らぎ求めたりする時って、人恋しくなったりしないの?」
「そんな弱さ、この時代に感じていては、生き残れん。それに・・・・・・」
「政宗様が大事。政宗様を差し置いて・・・・・・って? 別に手取り足取りしてやらなきゃならないような赤ん坊でもないだろ、あんたのところの。でもまぁ、そういうあんただから、抱いてみたいって思ったんだけどね」
佐助の言葉に返ってきた答えはなかった。
小十郎は手で口を塞ぎ、絶え間なく押し寄せる感覚に流されこぼしてしまいそうな吐息を押し留める。
身体は火照り、時折火をつけられたような痛みとも快感ともいえる衝動が湧き上がる。
それが証として残されているモノである事をまだ知らない。
「だめだめ、口なんか塞いでいちゃ」
今は絶対いい声で歓喜を表した、そんな刺激を与えても必死に堪える小十郎の頑固さに、我慢できず耳打ちした。
「どけて、その手。どけないと、縛っちゃうよ?」
どこまで本気で冗談なのか、図れない佐助の言動に振り回される。
「やれるものならやってみろ。簡単に落ちたりはしない」
「そうは言っても、必死に抵抗はしない。それって、受け入れるって思っちゃうよ? でだ、そう思うと、あんたの態度って焦らして楽しんでいるのかって、思っちゃうわけ。わかる?」
わかるかっ!―――とは思ったが、伝える前に思考が混乱してしまう。
佐助は時折話をしながらも、小十郎を責めることをやめない。
小十郎の身体は丹念に責める佐助によって、徐々に開花させられていく。
感情と身体が分離して、別のもののように感じながら、何かとてつもないモノの中に身を投じているような錯覚が生まれ出す。
「いっ・・・・・・」
手で口を塞いでいても漏れる程の苦痛が突然、これで一線を越えたかと落胆しつつも安堵する思いもあった。
小十郎は、ただ一度、佐助の願いを受け入れれば、これ以上付きまとわれることはないと思っていた。
男が男に身を委ねる―――普通に考えればとても異常だと思ってはいても、こんな感じがつづくのならばそう悪いものでもないのか―――そんな気がしていたのも事実。
「これで、気が済んだだろう」
痛みが引くと、小十郎はこれで開放される、奥州に戻れると大きな吐息と共に、そう口にした。
―――が、佐助は冗談だろ・・・・・・と、鼻で軽く笑う。
「まだこの指の先っぽが入っただけ。わかる? これくらいかな、入っている長さ」
入れた指は右、空いている左の指で説明をする。
「何? まだ入れるのか? 指・・・だと?」
「そう、指。だってじっくりほぐさないと痛いよ〜きっと。刀で斬られるよりずっと・・・・・・多分だけどね」
「多分・・・・・・だと? きさま、知らないのか?」
「まぁね、だって俺、突っ込んだことはあっても、突っ込まれたことないもん。こういうのってさ、向き不向きっていうの、あると思うんだよね。で、あんたは断然受身って感じ」
これ以上痛い、これ以上入ってくる―――だと?
小十郎の思考が真っ白になっていく。
そして、実際に入るのモノは指以上の太さと長さがあることに、まだ気づいていない。
「もしかして、いきなりっていうのが好み? それだったら、それでいいけどさ・・・・・・俺、こういうことしている間にまで、血って見たくないんだよね・・・・・・」
血―――?
もう小十郎の思考は全く佐助の言っていることについていけないし、理解も出来ない。
「言葉で説明っていうのも、俺向きじゃないし。とっとと突っ込んでみる? 俺はそれでもいいけど。だってさ、もう限界。希望が叶うって、こうまで余裕がなくなるんだな・・・・・・。知っていた?」
「知るか!!」
「だよね・・・・・・」
少し茶化した後、小十郎の気持ちを宥め、身体ごと気持ち善くすることを佐助は忘れてはいない。
要所要所に抜け目がないのだ。
「少し濡れてきた・・・・・・感じるだろ、こうなんか湿っぽいっとか」
「あぁ? ごつごつした異物があるぐらいにしか感じねぇ・・・・・・」
「全く、雰囲気作りに非協力的な人だ。少し、痛い思いしてみる?」
本当は出来るだけ優しく気持ち善くしてあげたいんだよ?
付け加えた言葉も意味がなくなる痛みが小十郎を襲ったのは、刹那にも似た間隔だった。
「っくぅ・・・・・・」
呼吸する器官を途中で止められた、そんな感覚で息がままならない。
痛くて苦しくて、こんなことをして何がいいのか、こんな行為、拷問のなにものでもない。
ある種、拷問より拷問だと小十郎は思う。
「力抜いて。でないと本当に血を見るよ? それに、余計つらいだけ」
「って、貴様・・・・・・知っていてやっているだろ」
「そうだけど? だってさ、全く協調性ないんだもん・・・・・・仕方ないよね? ほら、俺が居たから今あんたはここにいるんだし?」
そう、その事を持ち出されては、小十郎には何も言い返せない。
「大丈夫。時期に気持ちよくなって快感〜って思えるから。俺がそう思わせてやるから」
「ばかか、こんなもので、気持ちいいはずが・・・・・・いっん・・・・・・」
小十郎の言葉に重なるように、そうでもないんだよね、実際―――と、付け加えた佐助の腰が更に奥深くに入り込む。
胎内に填まっているモノが深くまで突き刺さり、違和感が増すばかり。
こんなもので―――
小十郎の疑心は消えないが、佐助の言葉が現実となり始めていた。
身体がといっても、全体ではなく一部だけ、一際活発になりだしていた。
「ね、言っただろ。気持ち善いってさ。あんたのコレがその証拠」
二人が繋がった個所を指差し、その中央に勃つモノを見せた。
「・・・・・・くっ」
小十郎は心と身体とが分離しただけではなかった。
「なにかの間違いだ・・・・・・」
「そうじゃないって。これが正常なの」
「外道が・・・・・・」
「はいはい、全くどこまで頑固なんだか・・・・・・。けれど、最後に当たるのは俺の方だと思うけれどね」
全てが一瞬一瞬に過ぎていった。
記憶が途切れ途切れに思い返しているように、全ての行為が一瞬なのだ。
その間、小十郎は現実を受け入れたり拒否したり、何もかもが彼の想像をはるかに越えていた。
抱かせてよ―――
こんな事をしたいが為だけに、ここまで呼び寄越したのか、お前は―――猿飛佐助
繰り返される疑問に答える者はいない。
完
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